相続対策 2.節税対策②

③課税方式

  贈与税の課税制度には、暦年課税方式と、相続時精算課税方式(受贈者である子等が、贈与者である父、母等ごとに選択できますが、一度選択すると暦年課税方式に戻れません。)の二つがあります。

ア 暦年課税方式

(ア)課税価格

  贈与税の計算の基礎となるのは、その年の1月1日から12月31日までの間に贈与によって取得した財産の価額の合計額です。
相続又は遺贈によって財産を取得した者が、相続開始の年にその被相続人から贈与により取得した財産については、相続税だけが課税され、贈与税は課税されません。
ただし、下記(エ)で説明する贈与税の配偶者控除の適用を受ける財産で相続税の課税価格に算入しないものは、贈与税の課税価格に算入されます(結果的には贈与税も課税されませんが、申告書の提出が必要です。)。

(イ)基礎控除

1年間に様々な人から贈与を受けた財産の価額の合計額から110万円が基礎控除されます。
この財産の価額の合計額が110万円以下であれば贈与税は課税されませんし、申告も必要有りません。

(ウ)贈与税額

贈与税の早見表(平成27年1月1日以後)

贈与財産の価額合計から基礎控除及び
配偶者控除を控除を控除した後の価格


一般

20歳以上の者への直系尊属からの贈与
200万円以下
10%
10%
200万円超 300万円以下
15%-10万円
15%-10万円
300万円超 400万円以下
20%-25万円
15%-10万円
400万円超 600万円以下
30%-65万円
20%-30万円
600万円超 1,000万円以下
40%-125万円30%-90万円
1,000万円超 1,500万円以下
45%-175万円
40%-190万円
1,500万円超 3,000万円以下
50%-250万円45%-265万円
3,000万円超 4,500万円以下
55%-400万円
50%-415万円
4,500万円超
55%-400万円
55%-640万円

<計算例>
贈与財産の価格合計350万円で一般の場合
贈与税額=(350万円-基礎免除110万円)×15%-10万円=26万円

(エ)贈与税の配偶者控除

  その年に婚姻期間が20年以上である配偶者から、次の居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭を贈与により取得した場合には、課税価格から2,000万円が控除されます。
  ただし、控除される金額は、その贈与により取得した居住用不動産の価額に相当する金額と、その贈与により取得した金銭のうち居住用不動産の取得に充てられた部分の金銭との合計額が、2,000万円に満たない場合にはその合計額が限度とされます。
  基礎控除110万円のほかに、この最高2,000万円の控除ができます。
A.居住用不動産等


(a)専ら居住の用に供する土地等又は家屋(以下「居住用不動産」という。)で、贈与を受けた年の翌年3月15日までに受贈者の居住の用に供し、かつ、その後も引き続いて居住の用に供する見込であるもの
(b)居住用不動産を取得するための金銭で、その金銭の贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住用不動産の取得に充て、かつ、その取得した居住用不動産を同日までに受贈者の居住の用に供し、その後も引き続き居住の用に供する見込であるもの


B.相続税の3年以内の贈与加算との関係


相続開始前3年以内に婚姻期間が20年以上である配偶者に該当する被相続人からその配偶者が贈与により取得した居住用不動産又は金銭で、次のものについては、その価額を相続税の課税価格に加算しないこととされています。
(a)相続開始の前年以前に贈与により取得した財産のうち、適用を受けた贈与税の配偶者控除額に相当する部分
(b)被相続人の配偶者が被相続人からの贈与について贈与税の配偶者控除の適用を受けたことがない者である場合において、相続開始の年に贈与により取得した財産のうち、その財産に贈与税の配偶者控除の適用があるものとした場合に控除されることとなる金額に相当する部分としてその者が選択した部分


C.同じ贈与するにしても、家屋と敷地を夫婦で共有する形にした方が有利


と申しますのは、将来、夫婦がこの居住用不動産を譲渡したときに居住用財産の3,000万円特別控除をそれぞれ適用できることになるからです(この3,000万円控除の適用要件は満たす必要があります。)。


D.この配偶者控除の適用を受けるには、申告書の提出等が必要です。


くわしくは税理士等にご相談ください。

(オ)贈与は長期計画で、かつ、よく考えて

  贈与が長期間にわたってされるほど贈与される財産も多くなり、節税の効果は大きくなります。
そうすると早い時期から贈与を始めればということになりますが、ただ闇雲に贈与すればいいというものではなく、やはり時機を得たものでなくてはならないでしょう。どの財産を贈与するかも現在と将来をよく考えるべきでしょう。

(カ)贈与契約書の作成

  贈与があったのにそのことを第3者に後で否定されたり、間違って理解されたりしてはたまりません。そうならないためには、贈与の都度、贈与契約の内容を書いた契約書を作成しておくことです。

(キ)一代とばしの贈与

  孫への贈与は、本来で有れば親から子、子から孫へと二度相続税を払って財産が移転する代わりに、一度の贈与税の払いで済みます。ただし多額の財産の贈与の場合は贈与税も多額になりますから結局節税にならないこともあります。一年に贈与する額も考慮が必要です。

(ク)現金預金を生前贈与する場合の税務上の留意点

A.贈与契約書の作成。
B.贈与をする人の銀行口座から預金を引き出し、受贈者の銀行口座に振り込むか預け入れする。
C.受贈者の銀行口座の印鑑は受贈者独自のものであること。
D.受贈者が通帳、印鑑等を保管する。
E.その預金は受贈者がいつでも使える状態であること。

相続時精算課税制度を選択した場合においても現金預金を贈与する場合は、同様の注意が必要です。

(ケ)現金預金で賃貸用建物を建築(又は取得)して贈与

現金預金を贈与した場合の贈与税の課税価格は、額面の金額ですが、賃貸用建物を贈与した場合の贈与税の課税価格は、その賃貸用建物の取得に要した額よりも通常少なくなる事が考えられ、節税になる場合があります。

  賃貸建物の取得に要した金額が2,000万円だとすると、賃貸建物の贈与税の課税価格は例えば次のように1,120万円位になるようなことです。
  賃貸建物の課税価格
固定資産税評価額×1.0×(1-借家権割合0.3×建物の賃貸割合)
仮に固定資産税評価額が1,600万円だとすると、
1,600万円×1.0×(1-0.3×100/100)=1,120万円
なお、固定資産税評価額は全ての場合とはいえませんが、建築費よりも通常少なくなっています。
この場合、暦年課税方式の場合は贈与税がかかることが考えられますが、相続時精算課税制度を選択した場合は、額によっては贈与税がかからないことも考えられます。

イ 相続時精算課税

(ア)概要

贈与税の課税制度は、原則「暦年課税」ですが、一定の要件に該当する場合は、相続時精算課税を選択することができます。
この制度では、贈与財産の累計が、2,500万円までなら贈与税はかかりません。
多額の財産の贈与を受けたいが贈与税が心配な場合に選択を検討されたらと思います。
なお、生前贈与は遺留分の算定において関係がありますので、贈与する際に遺留分を侵害する可能性がないかの検討をした方がよいと思います。

(イ)適用対象者

A.受贈者


  贈与者の推定相続人である直系卑属又は贈与者の孫のうち、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上である者


B.贈与者


  贈与をした年の1月1日において60歳以上である者

(ウ)適用対象財産等

贈与財産の種類、金額に制限はありません。

(エ)税額の計算

A.贈与税額の計算

  相続時精算課税の適用を受ける贈与財産については、その選択をした年以後は、相続時精算課税に係る贈与者以外の者からの贈与財産とは区分して、その贈与者から1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額を基に贈与税額を計算します。
  その贈与税の額は、その年の贈与財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額(限度額2,500万円。ただし、前年以前において既にこの特別控除額を控除している場合は、残額が限度額となります。)を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて算出します。

  なお、相続時精算課税を選択した受贈者が、相続時精算課税に係る贈与者以外の者から贈与を受けた財産については、暦年課税が適用され、その贈与財産の価額の合計額から暦年課税の基礎控除額110万円を控除し、贈与税の税率を適用して贈与税額を計算します。

B.相続税額の計算

  相続時精算課税を選択した者に係る相続税額は、その贈与者が亡くなった時に、それまでに相続時精算課税の適用を受けた贈与財産の価額と、その贈与者が亡くなったことによって相続や遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。
  その際、相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額については、相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。
  なお、相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の価額とされています。
  これらのことが、この制度が相続時精算課税といわれる所以です。

C.適用手続

  相続時精算課税を選択しようとする受贈者は、その選択に係る最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に、納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税制度選択届出書」を、受贈者の戸籍の謄本など一定の書類とともに贈与税の申告書に添付して提出することとされています。
  相続時精算課税は、受贈者が贈与者である父、母、又は祖父、祖母ごとに選択できますが、いったん選択すると選択した年以後贈与者が亡くなる時まで継続して適用され、暦年課税に変更することはできません。
  なお、期限内申告でない場合は、相続時精算課税の特別控除が適用されず、一律20%の税率で贈与税がかかります。