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会計参与は会社を変えるか!

これまで中小企業の決算書は、一般的に信頼性が低いといわれ続けてきた。そんな現状に風穴を開けるべく、平成18年5月施行の会社法で新設されたのが「会計参与制度」である。日本独自のこの制度は、中小企業の会計をどのように変えていくのか。会計参与の役割を解説する。

中小企業の決算書の正確性、信頼性を高めるために

平成18年5月1日に施行された「会社法」の目玉の一つは、「会計参与制度」が創設されたことだ。会計参与とは、「取締役と共同で計算書類等(決算書)を作成する会計の専門家」のことで、税理士・税理士法人・公認会計士・監査法人でなければならず、企業規模に関係なく任意に設置できる「機関」である(ちなみに会社の機関とは株主総会、取締役、取締役会、監査役などのこと)。
 この会計参与を創設した狙いは中小企業の決算書の正確性、信頼性を高めることにある。従来、金融機関は融資するにあたって経営者から個人保証を取ったり、不動産を担保に取ったりして行っていたわけだが、このやり方を続けている限り、経営者は常に大きなリスクを負わされることになる。かといって、上場企業のように決算書を担保にして融資しようにも、一般的に中小企業の場合は内部統制機能が不十分なため、信頼性にかけていた。
 そこで、この問題を解決する手段として考え出されたのが、一つはこの会計参与制度の創設であり、もう一つは平成18年4月にできた「中小企業の会計に関する指針」(以下、会計指針)である。つまり、会計参与が中小企業の内部に入って取締役と共同で会計指針に基づいて決算書を作成すれば、それは金融機関から高く評価され、資金調達が可能になるということだ。実際、都銀・地銀のなかには会計参与を導入している企業に対して金利面で優遇する動きが出てきている。

税理士が「会計参与」に就任するケースとは

今回の会社法では株式会社を「大会社か否か」「公開会社か否か」の4つに分類する一方、その機関設計にあたっては新しいルール(株主会社と取締役は必須の機関など)を設けた。この4分類と新ルールにしたがえば、株式会社の機関は「株主総会+取締役」など、全部で39パターンとなる。
 では、この39通りのなかで税理士が会計参与として関与するのはどういうパターンだろうか――。コスト(報酬)との兼ね合いなどから見て、まず大会社でなく、公開会社でもない「株式譲渡制限中小会社」で、その機関は「株主総会+取締役」か「株主総会+取締役+取締役会」のパターン(に会計参与を加えるケース)ではないだろうか。言い換えれば、旧商法ではスタンダードだった「株主総会+取締役+取締役会+監査役」という組織で、身内(一族)から形だけ監査役を出しているような場合は、その監査役に代えて会計参与を設置することが考えられる。
 会計参与は、取締役と同様に株主総会の決議によって選任され、その任期は原則2年。したがって、株式譲渡制限中小会社が会計参与制度を取り入れる場合、まず定款を変更して「会計参与設置会社」としたうえで、株主総会で会計参与を選任しなければならない。会計参与には、その職務を行うにあたって会計帳簿などを閲覧・謄写したり、取締役や会社の使用人に対して会計に関する報告を求めることができる、などの権限が与えられている。
 その一方で、会計参与は決算時に「会計参与報告」を作成しなければならず、また、会社に対する責任と第三者(金融機関など)に対する民事上の責任を負わされている。このため、税理士が会計参与に就任するにあたっては、その会社の状況や組織体制について十分な情報を収集する必要がある。
 例えばTKC会計人であれば、就任予定会社が(1)翌月巡回監査を100%実施しているかどうか、(2)税理士法第33条の2の第1項による書面添付(税務申告書の作成に際し、税理士が計算し、整理し、または相談に応じた事項を財務省令で定められた書面に記載し、申告書に添付する制度)を実施しているかどうか、(3)TKCの『戦略財務情報システム(FX2)』などを導入・活用しているかどうか、などがチェックポイントになるだろう。しかし、会計参与を普及させていくことを考えれば、ハードルはあまり高くせず、(1)と(2)がクリアされていれば引き受けてよいのではないかと思っている。

会計指針と税法基準の違いは何か

さて、会計参与が社内に入ってくると、会計処理の面では何がどう変わるのだろうか。そのポイントは、会計参与は「会計指針」を拠り所にして決算書を作成するため、貸倒引当金や減価償却費の計上などの面で、従来の「税法基準」とは違いが生じる点にある。
 例えば、A社がB倶楽部のゴルフ会員権1000万円を所有していたとする。この場合、税法基準では「取得原価」であるが、会計指針では著しく下落(取得原価に比べ50%程度以上下落)した場合は「減損処理」を行わなければならない。仮に時価が400万円になれば600万円(1000万円−400万円)を損失として処理しなければならず、A社のこの期の利益が仮に600万円だったとすれば利益がゼロとなってしまう。これに対し、税法基準では取得原価で処理できるため、600万円の利益が出る。ただし、ゴルフ会員権が著しく下落したことは考慮されなかったことになる。
 あるいは、A社は得意先C社に2000万円の売掛債権があったとする。このC社が銀行取引停止になった場合、会計指針では取立不能と見、その分を全額貸倒引当金として計上しなければならないが、税法では損金算入限度額「以内」しか引当金を計上できない。C社が債権者集会などを開き、法的手続きを行った段階で全額「貸倒」となる。つまり、経営の実態と税法では“タイムラグ”があり、会計指針は「損出し」を先に行っているのに対し、税法基準は問題(実態)を先送りしているわけである。A社の取引銀行にとって、どちらが正しく実態を表している決算書かといえば、会計指針の方だ。
 実は、金融機関では融資先の格付けを行うにあたり、税法基準に則って作成された決算書を時価に修正して評価している。とかく経営者は少しでも決算書の見栄えをよくしたいと考えがちだが、そうしたからといって当の金融機関からは評価されないということを、経営者は認識すべきだろう。

黒字化への仕組みづくりを行うべし

とはいえ、金融機関に提出する決算書がいくら会計指針に基づく信頼性の高いものだとしても、その会社の業績が悪く、返済能力がなければ、借入はできまい。赤字を放っておいたまま、正確な決算書さえ作成すれば、その役割を果たしたことになるのだろうか。そのとき、経営者から「どうすれば黒字に転換できるのか」という相談があっても不思議はない。
 一般に会計といえば「外部報告」を指す。上場企業であれば株主や投資家等が外部ということになるが、譲渡制限中小会社の場合は金融機関、取引先、税務当局くらいだろう。その際、会計指針に基づいて決算書を作成するのは当然のことで、金融機関から見ればそれは必要条件にほかならず、十分条件は黒字で返済能力があることだ。
 会計参与というと、外部に決算書を報告することのみ論ぜられているが、実はもう一つ見落としてならない役割は「内部報告」だ。つまりその会社が仮に赤字であるなら黒字に転換させる“仕組みづくり”を行うことにある。具体的には、会計参与は社長のよき相談相手となり、1.会社の進むべき方向性(ビジョン)を定め、2.それを実現するための道筋(戦略)を考え、3.そのための具体的な経営計画を作成する、ということだ。
 例えば、TKC会計人の場合は従来から関与先企業に対し『継続MAS』で次期の予算を作成し、そのデータを『FX2』に月別展開して予実管理する――ということを提案・実践してきているが、会計参与による黒字化への仕組みづくりも、基本的にはこれと同じと考えてよい。つまり、こうしたスキームのもと、適時にかつ正確なデータを『FX2』に入力して業績管理しなければ、黒字に向かって進んでいるかどうかは把握することができない。
 「会計参与が入っている会社はやはり違う。この前まで赤字だったのが、会計参与がきて社長と一緒に旗(経営革新)を振り始めたら黒字に変わった」といわれるくらいのことをやるべきだ。
 ところで、会計参与の報酬はどれくらいが適正なのだろうか。これも難しいテーマだが、一つは「リスク連動型報酬」があるといえる。例えば、就任予定会社が書面添付を実施しているか、『FX2』を導入しているか、などによってリスクは違うため、それに応じて報酬を設定するわけである。換言すれば『継続MAS』『FX2』「書面添付」を実施しているところに対しては、リスクが低いため、その会社から得ている税理士報酬が一つの目安になると考えられる。
 最近、中小企業庁が行った「会計参与」に関するアンケート調査によれば、中小企業経営者で会計参与を認知している人は全体の約3割にとどまっている。この認知度を上げていくことも今後、会計参与を普及させるうえで大きな課題である。
 そのためには、金融機関から「あの税理士は会計参与をやっているが、この税理士はやっていない」とプレッシャーをかけてもらうのが最も有効かもしれない。