13回 『利益』と『資金』は違う

 

 M社は30人程の製造業である。ある年に突然業績が好転し、3千万円程の経常利益がでることが概算決算で分かった。今までは、せいぜい100万円か200万円の利益しかでていなかったのにである。この好調に大喜びの社長は、いままで我慢に我慢を重ねてきた懸案の設備投資を3千万円実施した。儲けの全部を設備に投じて、来期の大躍進を期待したのである………。とたんに資金繰りが大ピンチに陥った。設備投資の決済は現金300万円と残金は半年の割賦手形だったのである。

 社長は、「経常利益の金額以内の設備投資で、こんな資金不足を起こすはずがない。損益計算が間違っているはずだからもう一度やり直せ。」と経理を叱りつけたが、後の祭りである。結局、3千万円の設備資金と2千万円の納税資金(確定法人税等と6ヶ月後の予定納税)、合計5千万円を緊急で融資を受けなくてはならなくなったのだ。

 会社の経営状態を説明する時に、『利益』と『資金』の説明ほど厄介なものはない。

 日本の『会計学』は貸借対照表と損益計算書が中心である。これは商法や税務署がそれだけを求めているためであるが、もともと国への報告用の要請から仕方なく作成している資料がそのまま会社経営の羅針盤として使われはじめたために、世の中に大きな誤解が蔓延することになったのである。

 そのもっとも大きな誤解の一つは『損益計算書の利益がでていればその利益と同じだけの現金が会社にあるはずだ』という考えである。『利益と資金はイコールではない』ということは会計学の基本中の基本であるが、これを知らない社長があまりにも多すぎる。これを知らないために、少し利益がでると現金や手形で設備投資をするという『倒産への近道』を辿る愚行を犯してしまうのである。

 資金に関する大きな誤解の二つ目は『無計画な売上増大は運転資金を増加させ、その手当てができなければ、売上高が過去最高となったときに会社は倒産する』というウソみたいなホントのはなしである。残念ながらこの事実を知らない社長がこれもまたかなりいる。これは売上の増大に伴い、売掛金と在庫が増大し、利益は増大するが必要運転資金の増加がそれを上回って、その手当てができないときに倒産に至るというこれも会計学の基本なのである。

 そもそも、中小企業で作られている貸借対照表、損益計算書は『課税算定』の目的で作られたものであり、それをそのまま商売の目的に使うことはできないのだ。なぜなら、会社経営にとって一番大事な『資金』のことがどこにも書かれていないからだ。

 会社経営にとって、もっとも大切なものは貸借対照表でも損益計算書でもなく、『資金運用表』又は『資金繰り表』さらには『キャッシュフロー計算書』というような資料であり、我が社の、現在のそして将来の『資金』がどうなっているかを、常に教えてくれる(それはすなわち、会社がつぶれるかつぶれないかを教えてくれる)資料なのである。そして、この資料は税務署に出す資料ではないのだから、様式なんかにこだわらず、社長が一目見て、資金の動きが分かるように、修正に修正を加え、我が社独自のものを作りあげるべきなのである。

 今後は、社長たるもの「利益はどうなっているか」と言うだけではなく、「資金はどうなっているか」を問い続け、「利益をだす経営」から「キャッシュを残す経営」に方針を転換していただきたいのである。それがすなわち「つぶさない経営」への道なのである。

 

参考文献:一倉定の社長学「利益計画・資金運用」