第16回 経営方針書で「社長の姿勢」を明確にする
納期遅れに振り回され、生産の遅延対策に頭を突っ込み、不良品の発生原因を探り、そのくせ対策はなし。売り上げ不振にハッパをかけ、利益率低下に悩み、知らないうちに得意先は奪われ、そして資金繰りに追われる。行き当たりばったりの儲け話に乗っかり、思いもよらない借金を背負い込む。
社長が、毎日毎日をその日の仕事に追われていたのでは、その会社の将来は、どうなっているのであろう。会社の将来は、だれが考えているのであろう。まさかそれを社員に任せているわけではあるまい。こんな会社の社員は浮かばれない。
そのくせ、「うちの役員は経営者としての自覚が足りない」とか「うちの部課長は一人として満足に仕事ができるやつはいない」というような部下の批判や不満は人一倍持っているのだから、救えない。部下をいくら批判しても、事態を変えることは不可能なのだ。そして、部下を批判することは社長として全く間違った態度なのである。
ではどうしたら社長が日常の問題から解放されて、本当の意味での事業経営のための時間を生み出せ、同時に社員がやる気をもって仕事に取り組み、社長の思い通りに動いてくれるのだろうか。
それを解決する方法はたった一つしかない、それは、経営計画書を作成することである。この計画書の中に、方針書として「社長の姿勢」と「事業経営の方向づけ」を明確にすることなのである。すべての社員がこの方針書を1年間肌身離さず、身近に置き、ボロボロになるまで読み返し、これが指導理念として繰り返し繰り返し社員に強調されなければならないのだ。
その中には、商品に関する方針、得意先に対する方針、設備投資に対する考え方、借入計画、人員計画、製品の品質基準、値決めの方針、在庫基準、クレ−ム処理の方針、社員の心構え、その他事業経営に関する全ての社長の方針が示され、社員一人一人がすべきことが一目瞭然なのである。
経営計画書は単なる数字の予測ではなく、「社長の姿勢」と「社員がなすべきこと」を明文化したものであり、このことの意味が非常に大きいのである。これがなければ、社員は勝手気ままに自由にやるか、何をするにも毎日社長を追っかけるしかないのである。
『社長自身が社員にやってもらいたいことを明文化し、我社の進むべき方向を示してあげること』以外に社長の仕事の中で最重要な仕事があるだろうか。社長自身が我社の将来を明示することをせずに、社員はどうして自らの未来を考えることができるのか。社員の最大の不安がここにあるのだ。この不安を取り除いてやることは社長の責任なのである。
ここで大切なことは、方針書の一字一句が社長の頭の中からひねり出されたものでなくてはならないということである。ここを間違うと、方針書は絵に描いた餅になってしまう。各部署からあがってきた方針書をまとめただけのものでは、まったくの迫力不足なのである。多くの会社で「経営計画書はやってみたが、効果はなかった」という場合、実はほとんどがこのケースなのである。
社長自身が自ら作り上げた経営計画書こそ、社長自身を、本当の意味での事業経営に目覚めさせ、自らの心に「革命」を起こさせるものである。同時に、社員に対しては、会社の将来に関する不安を解消させ、社長を信頼し、希望に燃えて働く意欲を心底から起こさせる、というものなのである。
参考文献:一倉定の社長学「経営計画・資金運用」