18回 値決めは経営である

 

 「値引きしなければ売れません」、「競合A社が安売りしてきたから我社も値下げしましょう」、「みんなやっている。そうしないとお客様が来なくなります」、「この値段まで下げないとお客様が契約してくれません」という営業の言葉を真に受けて、安売りに走る。安くすることだけが戦略で、他には何もない。こんなことが経営と言えるだろうか。

 赤字会社の特徴は安売りである。他社が安売りをすると、しょうがないと言いながら値段を下げ始める。高く売ろうとする努力など考えたこともなく、安く売るから注文は多く、会社の中はいつも忙しい。忙しいから儲かっていると思っているが、利益は微々たるもので、社員は一生懸命働くがみんな安い給料しかもらえない。そのうちいい日がくるからと耐えているが、そんな日はいつまで待っても来ることはない。

 本当に安くする以外に方法がないというケ−スももちろんある。しかし、その時にはその商品はすでに衰退期に入っているのであり、すでに撤退すべき商品であるはずなのだ。安売り戦略は資金力の豊富な大企業の戦略であり、中小企業が安易に取り入れる戦略ではないのだ。

 それにもかかわらず、不況だ不況だといって安売りすることがしょうがないと考え、撤退することなど思いもよらず、値引きの要請を「生きるためにしょうがない」と受け入れ自己を正当化してしまう。そこには、どうしたら高く売ることができるのかのアイデアをしぼりだす工夫もない。そんな努力もないのだから、商品のライフサイクルに合わせて新商品を常に探し求めているということもない。

 そういう会社の安売りの本当の理由というのは、「高くしたら安い価格よりも売りずらいし、お客様にもいやな顔をされる。それと高く売ってしまったらその後のお客様からのフォローの期待が高まる」そういうことからただ逃げているだけなのである。人間は安きにつきやすいのだ。お客様にはいつもいい顔をしていたいのだ。こんなことを社長が「しょうがない、しかたないことだ」といって認めていては話にならない。これこそ社長の大きな怠慢なのである。

 事業経営において、その収益源である売上を最大限に伸ばしていくためには、値段のつけ方が決め手となる。製品の値決めなど、営業マンや営業部長に任せておけばいいと考える社長もいるかもしれないが、これはとんでもない話で、「値決めこそは経営そのものなのである」値決めは単に売るため、注文をとるためという営業だけの問題ではなく、経営の使命を決する最重要問題なのである。

 現在のような過当競争の中にあっては、いつでも非常に厳しい値下げの要求があて、特に競合品があれば、合い見積もりの中で天秤にかけられ、徹底的に値切られるのである。これは立場を変えてみれば、我社だって、仕入れ業者に対して同じことをしているのであり、そのこと事態は当たり前のことなのである。この売値と仕入値の攻防こそが経営そのものなのである。

 営業というのは値段を安くすれば誰にでも売れるのだ。しかし、それでは経営はできない。お客様が納得し、喜んで買ってくれる最も高い値段。それよりも低かったらいくらでも注文は取れるが、それ以上高ければ注文が逃げるという、このギリギリの一点で注文をとるようにしなければならない。その値段でどうしたらお客様が買ってくれるのか、考えに考え抜いて、その答えを出さなければならないのだ。それが営業であり経営なのだ。

 お客様が喜んで買ってくれる最高の値段を見抜いて、あらゆる工夫を凝らし、その値段で売る。その値決めは経営そのものであり、それを決定するのは社長の重要な仕事の一つなのである。

 

参考文献:稲盛和夫の実学 経営と会計