20回 売価は原価から決まるのではない

 

 U社は熱半導体のメーカーである。ある時、新型の選別機が開発されたという情報が入ったので、さっそく現物を見に行ったところ、なるほどすばらしい性能を持っていた。価格は1000万円だという。どうみてもU社のこれまで使っている選別機と比較しても外形といい、内部の部品といい、製造原価はほとんど変わらないと思われるので、「現在使っている機械と同値の500万円くらいが相場ではないか」と言ったところ、機械メーカーの言い分は、「原価からすれば、確かにそうです。しかし、この機械の性能からすれば、年間で大きな金額の節減ができます。その節減額の一部をメリット提供料としていただきたいのです」との返答だった。U社はメーカーの言い値で購入せざるを得なかった。

 N社のドル箱商品の粗利益率はなんと70%である。営業部では、売上高をもっと増やそうということで、「今のままでは売価が高すぎる。暴利は好ましくないから、原価計算をして適正価格を設定し、それで売るべきである。そうすれば売り上げはもっと増える」というわけで、原価計算書を添えて社長に提出してきた。

 商売を知っているN社長はこんなアホみたいな意見は取り合わない。何故かというと、その商品はお客様の側から見たら、こんな安い機械はないのであって、お客様はその価格よりはるかに大きな収益をその機械を使うことによって手に入れていることを知っているからである。

 N社長は「暴利というのは、お客様の足許を見て、商品の価値より高い価格で売ることであって、商品の価格よりはるかに大きなメリットを差し上げて、お客様が喜んで下さっている商品は、それが、原価の何倍になっていても暴利ではない。商品とは機能や満足を売るものであって、原価を売るものではない。」と、まったくその通りなのである。商品価格というものは原価に対する正当性ではなくて、機能に対しての正当性でなければならないからである。 

 J社で惣菜バイキング(あらゆる惣菜をまとめて100グラムいくらで売る)をデパートの地価の食品売り場で始めたときのことである。

 バイキングの100グラムあたりの売値は、全ての惣菜の平均利益率より高めに設定し、デパートにその企画書を提出したところ「原価の高いものも低いものも、同一価格で売ることになって不合理であり、売値も平均利益率でないとおかしい」という意見が出たという。それはまったく商売を知らない人の言い分である。

 J社は責任は当社で持つので是非やらせてくれとお願いした。結果は予想売り上げの3倍という大成功であった。もともと、惣菜の1品ごとに100グラムいくら、という売り方こそおかしいのである。100グラムいくらでは100グラム以下は買いにくいし、100グラム買ったのでは、食べきれずに捨ててしまうことが多いのである。お客様は、好きなものを好きなだけかえる便利さを喜んだのであり、そのために、多少値段が高くてもまったく問題にしなかったのである。 

 多くの会社で原価を意識しすぎるために、数多くの「儲け」の機会を逃している事例があまりにも多すぎる。「原価に目を向けるのはあくまでも損をしていないかをチェックするためであり、儲けるべきときには原価を意識してはいけない」のである。優良企業は、どんな場合にでも、原価なんかは無視して、商品の付加価値料やアイデア料はしっかりいただいていることを知ってほしいのである。

 

参考文献:一倉定の社長学「社長の販売学」