第23回 社長の知らないことばかり

 

 A製菓は、パンと洋菓子のメ−カ−で、フランチャイズのチェ−ン店舗を持っていた。

 A社長の悩みは売上が思うように伸びないということである。毎月、販売会議を開き、営業マンの報告を聞き、それにもとづいて販売戦略をたて、営業マンにノルマを課し、毎月毎月、先頭にたって叱咤激励し頑張っているのにである。

 A社長は毎日会社の中にいて、これまで一度もお客様のところへ行ったことのない典型的な穴熊社長であった。多くの赤字会社の共通点がここにある。すなわち、社長がお客様のことを全く分かっていないのである。分かっていないがために、その戦略がまったく的外れなのである。

 A社長はこのままではいけないと藁にもすがるつもりで、意を決してお客様のところを回りはじめたところ、今まで思ってもみなかったことがお客様との間に起こっていることを、イヤというほど思い知らされたのである。

 どの店でも言われたことは「配送時間を後30分でもいいから早くしてくれ」ということだった。特に駅前の店では「出勤の途中買っていく人が多く、その人に売るものがないから、何とか間に合わせてくれないか」という切なる望みである。「セ−ルスマンに何十回言っても聞いてもらえないから社長に言うのだ」と、憤懣をぶつけてきたのである。社長は全くの初耳だった。会社創業以来、何十人のセ−ルスマンが、述べ何百回もこのことをお客様から言われているのに誰一人として社長に報告しなかったのである。

 次は「配送箱が汚い」ということであった。これも初耳である。小売店では店先に空き箱を積んでおく。これが汚いのでは不衛生だという印象をお客様に与えるからである。これも何十回となくセ−ルスマンに言っているが、いっこうにきれいにならないというのである。セ−ルスマンは全くの聞き流しか、自分の仕事以外は仕事ではない、と思っているのか、いずれにせよ社長の耳に入らないのは同じである。

 三番目には、配送中に菓子同士でくっついて、同種類ならまだしも、異なった種類の場合は違う色がついて商品価値を落とす。「ヘラで手直しをしているが何とかならないか」というのである。これも初耳である。

 四番目には「土、日などは良く売れるのだがそういう時に追加注文しても受け付けてくれないので困る」というのである。売上が思うように上がらないというのに、追加注文を断っていたのである。これでは売上が上がらないのが当たり前だ。社長はショックを受けた。初めて自分がいかに何も知らなかったかを痛感した。

 しかし、そこは社長である。直ちに次々と手を打ったのである。

 まず第一は、配送時刻を一時間早めることである。夜勤を充実し、早番の出勤時間を早めてこれを実現した。駅前の店舗については、夕刻にもう一度翌朝分の配送を実施する、ということになった。

 第二の汚れた箱の洗浄は夜勤のパ−トを入れて解決した。

 第三の菓子のくっつき合いは、仕切り紙を入れてオ−ケ−である。

 第四の追加注文は、冷蔵庫にさえ入れておけば、かなり保管がきくことを利用して、月曜日から少しずつ作りだめして、土、日の需要に応ずるようにしたのである。

 正直なもので売上はたちまち上昇しだしたのである。そこには難しい販売戦略など何も要らない。お客様の要求を正しく掴み、それを満たしてあげる。ただ、それだけのことなのだ。日常の仕事の中では社長の知らないこのようなことが頻繁におこなわれていることを自覚し、社長自らお客様のところを訪問し、現場を見てみいただきたいのである。

 

参考文献:一倉定の社長学「新・社長の姿勢」