第27回 ただひたすらお客様のために

 

 T社は塩化ビニ−ルホ−スの専門メ−カ−で、市場占有率は70%にも達している。競合他社がどう頑張ってみても、どうにもこれを崩すことはできない超優良会社である。

 同社の製品価格は他社よりかなり高い。従って収益性は極めてよく、優れた業績をあげ続けているのである。

 猛烈な過当競争の中にあって、他社よりも高い価格で勝負をして、相手を圧倒しているのはどういうわけなのだろうか。「競争に勝つには価格をどれだけ下げられるかにかかっている」ということしか考えつかない低業績会社の社長がいかに間違っているかをT社から教えられるのである。

 T社のお客様は「T社の価格は確かに高い。しかし、サ−ビスがいいから、つい買ってしまう」というのである。T社の好業績の秘密は他社に比を見ない優れたサ−ビスにあるのだ。

 T社のT社長は、1週間のうちに5日間はお客様のところを回っている。これをもう20年間も続けている。そして、これは今後も続けられるのは言うまでもない。T社長は問屋や代理店だけではなくエンドユ−ザ−まで回っているのである。

 商品のことを一番よく知っているのはエンドユ−ザ−である。エンドユ−ザ−から教えられるわが社の商品の欠陥をT社長は直ちにコストを無視して改良し、これを自らエンドユ−ザ−に持っていってテストしてもらう。

 エンドユ−ザ−がまず感心する。「こんな経営者はいない」と。当然のこととしてエンドユ−ザ−がT社というよりT社長のファンになってゆく。

 テストの結果がいいと、これを自ら問屋に説明して回る。問屋もその誠意と努力に打たれる。こうして、T社の一つ一つの商品は、その品質と機能において他社に勝ったものになっていく。

 次には流通業者に対するさまざまなサ−ビスである。以前には商品は1巻100メ−トルとして、これをクラフト紙で包装し、ラベルを貼って納入していた。ところが、これを問屋の倉庫に積み上げると、不透明包装なので見ただけではなんだか分からない。これを見たT社長は透明包装に切り換えた。そのために、包装材料費が3倍になった。しかし、問屋では大喜びであった。

 また、1メ−トルごとのマ−キングを行った。これがついていないときには、切り売りの場合には巻いてあるホ−スをほぐし、曲がりぐせを直してから長さを測っていた。これは手間がかかるだけではなく、曲がりぐせが完全には戻らないために「測り込み」などもあり、少しくらいの儲けなど吹っ飛んでしまうこともしばしばあった。マ−キング後は、マ−クの数を数えてハサミを入れればよいために、大幅に作業が楽になっただけではなく、「測り込み」の心配は全くなくなってしまった。

 さらには、サイズの間違いを防ぐために、巻きはじめに、つまり最後まで残るところに大きなタッグをつけた。直径19ミリと16ミリのものは二つ並べてあれば間違うことはないが、一つだけの場合には間違うことがあったのである。

 このような改良は、T社長自らの得意先訪問により、自らの目で現場を見て、その不都合を発見することによって行われるのである。それは完全にコストを無視して行われるのである。

 このような改良は、当然のこととして流通業者に喜ばれ、例え他の業者が価格を安くして持ってきてもT社から買うのは当然なのである。

 

参考文献:一倉定の社長学「新・社長の姿勢」