第31回 社長のお客様訪問だけが会社を救う
会社に出勤しても、そのほとんどの時間を社内で過ごす。こういう社長のことを「穴熊社長」という。穴熊は、穴の出入口から見える外部の景色しか知らない。全くの世間知らずである。
「穴熊社長」は、お客様が何を求めているかについては、恐ろしいほど知らない。そのくせ、お客様のことが分かっているようなつもりでいるのだから困ったものである。
社員の報告からお客様の要求を知ることは不可能なのにその報告だけを頼りにして、事業経営の意思決定をしている社長が如何に多いことか。社員の報告を聞いてもその真為を自ら確かめもせず、さらに別の社員の報告によって確認するという愚に愚を重ねてもその誤りにさえも全く気づいていないのである。まさに赤字会社の典型である。
事業というものはお客様の要求を満たすことによって始めて成り立つ。そしてお客様の要求を満たそうとしているのは、我社だけではない。競合会社があるのだ。
お客様の要求を知って、それに応えるため、そして競合会社との競り合いに勝つためには、社長自らがお客様のところに行って、自分の目で見、耳で聞いて、お客様の要求を正しくとらえ、生き残るための市場戦略を社長自らが立てることが必要なのである。この仕事は会社の中でも最高レベルの仕事なので必ず社長自身がなすべきあり、他の誰にも任せてはいけないのである。
社長が1週間のうち、延べ1日以上会社の中にいるのは、明らかな怠慢である。週4日はお客様のところへ行ってこそ社長の責任が果たせるのである。
こういう主張をすると、外へ出たいのは山々だが、社内の整備をしなければ安心して外に出られないという反論が必ずある。あきれてものが言えない。いったい、会社の中に社長のどんな仕事があるというのだろうか。開業して半年や1年ならばいざ知らず、開業以来10年も15年以上もたちながら、いまだに社長が会社の中にいて、仕事の指図をしなければならないとは、社長は今まで何をやっていたのだ、と言いたい。というのは、会社の中の仕事のほとんど大部分は、単なる日常の繰り返し業務にしかすぎないからだ。
こんな次元の低い仕事は、入社して3ヶ月たてば何とかこなせるし、3年もたてば、いっぱしのエキスパートになれるからである。こうした仕事の管理は管理職で十分なのである。そのために管理職というものがあるのだ。社長が会社の中にいるということは、いかに管理職を信頼していないかを言外に示しているようなものである。
社長に信頼されない管理職は、少し面倒なことは自分で解決しようとはしない。ちょっとでも社長の意に添わないことをしようものなら、「なぜ社長の了解なしにやったのか」と言われるに決まっている。だから、社長にお伺いをたてる。この方が楽だし、責任を追及されないからである。
こんな状態で管理職が育つはずがない。「いつまでたっても世話をやかせる」「うちにはどうして人材が育たないのか」という社長の悩みは、社長自身がその原因なのである。社長が社内にいる限り、人材は育たないのである。
ある社長は、私に次のように語った。「私も以前は“穴熊”でしたが、数年前に事業に行き詰まり、これを打開するには自分がお客様のところへ行かなければと気がついて、それ以来ずっとお客様のところへ行き続けています。お陰様で、お客様に教わって会社はその後順調です。私が会社に出るのは1週間に1日分ぐらいですが、不思議なことに、1週間分の仕事がたまっているのではなくて、1日分の仕事しかないのです。というのは社員は、私がいないために私に指示を受けることができない。だから、自分で判断してどうするかを決めなければならなくなったからです。そして、どうしても私の指示を受けなければならないことだけを残しているわけで、それが1日分しかないのです。社員は自分で判断し、自分で決めるようになったために、大きく成長しました。社長がお客様のところへ行くことは、まさに“一石二鳥”ですね」と。まさにその通りである。いつまでも赤字から脱却できない会社はぜひ試してみていただきたいのである。
参考文献:一倉定の社長学「新・社長の姿勢」