第32回 使命感から出発する未来像を心にえがく

 

 会社は絶対につぶしてはならない。

 いつ、いかなる場合にも利益をあげ続け、存続させなければならない。これが経営者の最低限度の社会的責任である。会社と取引をするお客様をはじめ、仕入先、その他地域社会の中で活動していくための、社会的責任である。それは公のものである。

 次に社会に貢献するという責任を持っている。

 そのためには、会社自体が繁栄しなければならない。繁栄は、地域社会がその会社を必要としている何よりの証拠であり、逆に、赤字会社は地域社会から「あなたの会社は必要ないよ」ということを無言に警告されているのである。

 さらに、従業員に対する人間的な責任がある。

 「とにかく食っていけばいい」「もうこれ以上は大きくしない。こぢんまりやるのが私の主義だ」というような社長によくお目にかかる。こういう生き方は、個人としてなら結構である。はたから、とやかくいうことはない。しかし、経営者は従業員をかかえているのだ。社長がこのような気持ちでいたら、従業員は浮かばれない。

 人間はみな生活の向上を願い、自己の才能を発揮したいという欲求をもっている。一個の人間としての「自己拡大」の本能である。会社を発展させなければ、従業員の自己拡大の欲求は満たされない。いったん、経営者を頼って入社してきた人間の欲求を満たしてやろうとしないのは、人間無視もはなはだしいといえよう。

 別の意味からは、会社というものは、絶対に現状に留まってはいけないのだ。継続発展するためには、常に拡大指向することを義務づけられており、革新し続ける必要があるのである。そして、意外に気づかないことではあるが、会社というものは、社長が「ここでいい」と思った瞬間から衰退が始まるということを肝に銘じておいていただきたいのである。

 経営者は以上のような社会的な責任と、従業員に対する人間的な責任の両方を背負っているのだ。そのためには、どうしても長期的な繁栄を実現させなければならないのである。

 この自覚が経営者の使命感である。この使命感のない経営者は経営者の資格がない。この使命感の土台の上に、経営者のもつ人生観・宗教観などの哲学を積み重ねて「我が社の未来像」を心にえがく必要がある。それを繰り返し反芻し、温め、次第に高めてゆく。その未来像は、自分に言い聞かせるだけではなく、絶えず従業員に語り、社外の人に話すのである。そうすることで従業員いに希望を持たせ、社外の人々の援助や協力が得やすくなるのである。自らは、それが潜在的に植え付けられて「必ず実現してみせるぞ」という信念が生まれてくる。こうなればしめたものである。未来像に基づく、長期目標が設定され、目標設定のための青図が引かれ、発展への軌道にのることになるのである。

 経営者の使命感を土台にした、未来像のないところに経営はなく、繁栄はない。優れた企業は必ず優れた未来像を持っているものである。

 残念ながら赤字会社にはこのへんの認識が全く欠けており、さらには、認識がないから赤字会社になっていることにも気付かないようである。心しなければならない。

 

参考文献:一倉定の社長学「社長の条件」