第36回 社長のお客様訪問だけが会社を救う(2)
そもそも、「穴熊社長」が会社の中にいてやっている仕事とは何だろうか。まず第一には、社長にかかってくる電話の対応であり、第二には来客の相手である。どちらの用件も、日常の仕事に関することであり、会社の将来の方向づけに役立つ情報など、あまりないのである。そのくせ、これにとられる時間はバカにならない。
第三には小田原会議であり、第四には管理者からのくだらない相談である。どちらも社長がお客様の要求を知らず、外部情報にうといために、正しいと思いながら、その実は間違った決定が非常に多いことを私は知っている。
第五には書類に対するハンコ押しである。それは、ほとんど社長が見る必要のないものである。というのは、社長が本当に必要とする情報は、外部の情報なのである。しかし、社長が社内で見る書類のほとんど全部は社内の情報だからである。こんなことさえも分かっていない社長が多すぎるのである。
このように考えていくと、会社の中で社長がやっていることは、どうひいき目にみても本当の意味での社長の仕事ではないのである。こんなくだらない雑用や誤った活動などは、きっぱりと捨て去らなければならない。そして、本当に社長としての仕事をしなければならないのである。それには社長が外に出てしまうことである。そして、お客様の要求とその変化をとらえ、競合他社の動きを探り、世の中の流れの方向を見極めるのである。
社長が外に出る日は、朝、会社に出勤して、仕事を片づけてから出ようとしても、これはダメである。あとから、あとからいろいろな用事ができて、外に出られなくなってしまうからである。
だから、外に出る日は会社に出勤しないことである。ということは、週1日だけ出勤するのである。私がこういうと、穴熊社長はすぐに反論する。「手形や小切手の捺印はどうするのか、うちは毎日これがある」と言うのである。これは、社長が外に出たくないための口実以外の何物でもないのだ。そのような捺印も、1週間に1回の社長在社日にやればよいのだ。
ある会社でこれをやったところ、「会社の中が社長の在社日にあわせて仕事をするようになった。この日にハンコをもらわないと、1週間遅れてしまう。これでは仕事にならないからである。そのために、社員が計画的に仕事をやるようになった」と、思わぬ副産物に大喜びであった。
いままで、穴熊で一度もお客様の所へ行ったことのない社長が、お客様を訪問すると、どういうことになるだろうか。H社長の言を紹介しよう。「お客様の所へ行ったところで、初対面なので、これといった話題がスムーズにでるというわけにはいかない。挨拶をして名刺を交換すると、お互いにニラメッコのような格好になってしまう(H社長は技術屋で、恐ろしく口べたで無愛想である)。バツが悪くて仕方がなかった。しかし、何度か訪問を続けたところ、3回目ごろからは向こうからいろいろ話しかけてくるようになり、空気がほぐれて具合が良くなりました。そのために、話し下手の私でも、何とか話ができるようになりました」と。
だから、訪問は回を重ねる程良い。そして正しい訪問は、定期的、計画的訪問である。得意先をその重要度に応じて格付けをし、例えばA、B、Cというように、そしてAは月1回、Bは隔月1回、Cは年2回というような訪問基準を決めておくのである。この基準を定期的に手直しをしてゆくことにより、状況の変化に応じた計画的訪問を行うことができるのである。
我が社の商品のことを一番よく知っているお客様が「どうしたら売れるか」について社長に懇々と話をしてくれるのである。しかも、タダでそれをやってくれるのである。
参考文献:一倉定の社長学「新・社長の姿勢」