所長評論

    これまでに所長が内外等で発表した、評論・論文等を掲載します。

    二宮翁夜話を読んで

     まとまった時間を前々から読みたかった、二宮尊徳の言行録「二宮翁夜話」(福住正兄著)の解説本を読む機会にめぐまれた。
     二宮尊徳は、数々の荒廃した農村を立て直した実績を持ち、今でいえば企業再生のファンド・マネージャーに近い存在だった。その手法は、再建の主役となる農民のやる気を引き出す「出精」、社会への還元を目指す「推譲」、分に応じた生活を求める「分度」の3本柱であった。諸藩の家老・奉行から村の庄屋・農民にまで、幅広い支持を集めた彼のやり方は、経営者としても学ぶべき点が多い。
     荒廃した村を徹底的に調査し問題点を洗い出す。昔も今も組織の再生の手法は似たようなものである。まずは対象に対する徹底した調査と分析、次に再建シナリオの策定、そして所要資金の手当、さらに実行力のある経営者の確保などが必須の課題である。そして、最も大切で最も難しいのが、人心を同じベクトルに向かってまとめ上げることであろう。
     尊徳が生地小田原藩と縁続きの旗本宇津家桜町領(栃木県)の再建を命ぜられたのが、文政四年、三十五歳の時である。
     尊徳の見た桜町領の村々は、荒廃の極にあった。村人は働こうともせず、昼間から博奕にうつつを抜かし、村落は朽ち果てて狐狸の住處のようになっていたという。
     農民達をまとめあげる巧みな人心掌握術。尊徳が再建手法(仕法という)の第一にやったことは、精農への表彰である。最も重視すべきは「心田の荒蕪」即ち人心を再建することであり、このために採られた方策が精農への表彰だったのである。成功例を見せつけることで村人の意識が変わってくる。一足先に豊かになった人に倣って、次は自分がという向上心が湧いてくるという。
     次に仕法の第二のキーワードが「推譲」である。人の道として、譲るは人道なり、今日の物を明日に譲り、今年の物を来年に譲るの道を勤めざるは、人にして人にあらずと家産のある者は努めてこの推譲を行うべしというのだ。
     次に尊徳が求めたのは、その分に応じた生活である。これを「分度」といい、領主のみならず全ての者にそれぞれの「分度」を求めた。この実践がなければ人は随いてこないし、成果も挙げられないと考えた。 自分の身を投げ出さなければ人は随いてこない。尊徳は具体的に、財をなげうたなければ人は随いてこないと考えたようである。
     その際に、財を受ける者が感謝の気持ちを感じないようなやり方では効果は薄い。それには率先して奢りを戒め、倹約に務め、分限を守って、公共の目的のために財を拠出していくことである。
     それができて初めて周りの者も同じようにしようという気持となるものだという。 この二三三段にわたる「夜話」を読むと、この間旅先で仕法の陣屋で、あるいは農家の囲炉裏端で、尊徳が周囲の人々に、惓むことなく自らの思想を説き続けてきたことが分かる。
     TKC会計人もまた、周囲の人々に感化を与えようと思ったら、同じことをあきらめずにしなければならないだろう。まさに担雪埋井である。

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