個人も法人も広がる格差社会

    2006年10月「専業税理士界」の「主張」に掲載したものです。

    個人も法人も広がる格差社会
    格差を拡大させる税制

     個人も法人も広がる格差社会
           格差を拡大させる税制       2006年10月 高橋 逸
    政府の10月の月例経済報告(原案)では、現在の景気状況は10月で戦後最長のいざなぎ景気と並ぶ4年超の景気拡大期間とのことである。しかし、私たちの関与先企業である中小零細企業の実態や個人の感覚からは実感できない経済報告である。つまり、報告の根拠はバブル期を超える利益を更新している大企業を中心としたものであり、日本経済新聞の解説でも「実感なき拡大」としている。そして同日の新聞でこの経済報告とは対照的に、厚生労働省は生活保護の受給世帯数が2005年度に初めて100万世帯を突破したと発表し、その原因については所得の少ない高齢世帯が増加したことによると分析している。しかし、生活保護世帯数等の係数は景気の遅行指標であり、主たる要因はバブル崩壊後の長期経済不況である。つまりリストラ等による失業や非正規社員の増加による所得の減少が主な原因と考えられる。
    非正規社員についてはワーキングプア(生活保護水準より少ない収入しか得られない、働く貧困層)の実態があり、これら低所得勤労者の増加や所得格差の拡大は規制緩和政策によるものと説明されている。税制上の課題としては、低所得勤労者に対する所得税や消費税等の課税について政策上の配慮が欠けていること、つまり所得(租税負担能力)に応じた課税がなされていないことが重大な欠陥である。また、衣食住や教育などの最低生活費に課税しないことが憲法第25条(生存権の保障)「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」の要請である。従って、各種所得控除の廃止・公的年金等控除の縮小などは生活費非課税及び応能負担原則という税制の民主的原則に反し、生存権を侵害するものである。また福祉目的で増税を計画している消費税の実態は福祉とは相容れない生活費課税の税制であり、低所得者ほど実質的に負担増となる逆進性により、その増税は所得格差をますます拡大し憲法の要請にも反する。
    国税庁のまとめでは、民間企業の2005年度の平均給与は8年連続で減少しており、その要因は非正規社員の増加と考えられる。そして分析によれば、非正規社員等の年収300万円以下の給与所得者が急増しているが、同時に年収2000万円以上の給与所得者も増加しており、個人の収入格差が拡大している。例えば、大企業では一人あたりの役員報酬は企業利益を反映して増加しているが従業員の給与は増加せず低迷しており、格差拡大の実態をあらわしている。安倍首相は格差があらわれてきたのは構造改革の結果で自然なこと、と格差拡大を当然視しているので新政策である「再チャレンジ対策」にその転換策は含まれていないようである。なお、平成18年度国民生活白書では、若年者はパート・アルバイトから正社員への希望は多く(男性85%・女性52%)、再チャレンジを望んでいる実態がある。しかし、若年者の正社員への現実の転職割合はわずか約5%であり、この白書にも若年者就業支援への積極的な提案はない。
    小泉内閣の5年間で、個人には定率減税の半減や各種所得控除の廃止等により約4兆円の大増税を実施しており、逆に大企業には研究開発減税やIT投資減税等の大企業優遇税制により約1,5兆円の減税を実施している(朝日新聞)。その結果、大企業は史上空前の利益にも関わらずその所得に対する税負担割合は減少傾向にある。政府税制調査会の資料では、この約10年間で大企業優遇税制による法人税の減収効果が景気回復による増収効果を相殺して税収を空洞化させていることを示している。そして、法人税の減収を穴埋めしているのが消費税による税収である、言い換えれば、国民全体が負担した消費税の増収分が大企業への減税で消えたことになる。つまり、現状は企業優遇税制の恩恵を受けうる大企業のみが優遇され、その適用を受け得ない中小零細企業は優遇されず(応能負担原則に反する実態)、その結果企業格差は一層拡大している。また10月に日銀が発表した企業短期経済観測調査(短観)によると、景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業製造業ではプラス24で改善しているが中小企業製造業ではプラス6で前回より減少しており、格差がより拡大していることを示している。        

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