私 の 独 立 開 業 日 誌



私の独立開業日誌税理士 吉野 太

▽ 税理士受験の動機
当時フリーターだった私は、漫画「なにわ金融道」を読みながら人生の分岐点にたどり着きました。「ああ、世を知り、生き抜くには何か自分に自信の持てるものが必要だなあ・・・。うむ、それにはお金に関するスキルが一番かもしれないな。簿記だったら少しは勉強したこともあるし、税理士だったら働きながらでもいけるかな。税理士・・・税金は死んでもついて来る。恐るべし税金。税の知識を得ることは絶対損じゃない。」と、屁理屈をならべながらも結構必死で勉強をはじめました。でも、実際は税理士の仕事がどんなものかちっとも知りませんでした。

▽ 受験時代
フリーターなので、お金はありませんでしたが時間はたっぷりあります。生活できる最低限の稼ぎを計算し、「簿記論」「財務諸表論」を独学で数ヶ月勉強しました。しかし、一筋縄ではいかないとわかり、専門学校に通うことに・・・。結果、「簿記論」「財務諸表論」「相続税」に合格し、その後専門学校で知り合った妻と結婚、北海道旭川市の渡辺祐吉税理士事務所に勤務することになりました。 3科目合格後は二度落ちました。しかし、翌年7月子供が生まれ、切羽詰まった気持ちで受験、それが幸いしてか「法人税」「消費税」の2つに合格し、勤務税理士として登録することになりました。働きながらの受験は、いかに勉強する時間を確保するか、どれだけ集中できるかが勝負です。事務所に勤務後は通信教育で平日の20:00から23:00の3時間×5日で回し、土日に仕事や家庭の都合でできなかった分の調整をするというスケジュールで勉強しました。また、試験に受かるだけの勉強は実務に生かせず空しくなりますので、テキストに出てきた内容は、できるだけ法規集・通達集でも確認するようにしました。

▽ 勤務時代
勤務して数日後、担当先が数件ふられ何もわからないまま関与先を訪問、見よう見まねの巡回監査が始まりました。必死になってもわからない事だらけ、諸先輩は日中巡回監査で出払っているので、帰ってくると質問攻めにしました。「二度聞き、二度手間は大人として最大の恥」と言いますが、かといっていい加減な仕事もできないので、書庫にこもって諸先輩のスキルを盗むべくスパイ活動(?)をよくやりました。また、渡辺先生がTKC北海道会の旭川支部長だったことは本当にラッキーで、毎月2~3日はTKCの研修に参加させていただきました。資格取得後は勤務税理士として登録し、税理士会の支部活動にも参加。雪祭りには雪像を作ったり、ダイナマイツというベンチャーズのバンドに誘っていただいたりと、税理士会旭川支部の活動は楽しい思い出がいっぱいです。

▽独立開業
「バブル崩壊後の景気低迷の中で、どうしたら中小企業経営に貢献できるのか。」  独立を意識しはじめたころ、経営計画の重要性やキャッシュフロー計算書の重要性があちこちで語られるようになり、この業界も転換期を迎えつつあると感じておりました。その後さまざまな理由から北海道旭川市ではなく神奈川県伊勢原市で独立開業。土地勘のない場所で関与先0件。開業の不安を払拭すべく、渡辺事務所に頻繁に出入りしていたTKCの前田さんに相談しました。TKCは全国の税理士・公認会計士のネットワークで、会員は何処へ行っても仲間として迎えてくれるからと教えていただき早速入会。新天地での開業に大きな自信と安心感を得ました。

▽事務所経営
開業後、なかなか関与先は増えず「貧乏ひまだらけ」。でも「あの飯塚毅先生でさえ開業1年目には顧問先が1件もできなかったのだから今は事務所経営の基礎と将来像を考える時期だ。」と自分に言い聞かせ、事務所のロゴマークや看板を作ったり、研修にいったり、営業をかけたりしていました。うまくいったこと、失敗だったこといろいろありますが、今にして思えばこの3つが事務所経営のポイントかなあと思います。 ① 我が事務所の商品・サービス・価格・そして顧客を定義すること。 ② 顧客獲得・情報取得・共同戦線をはる同志のネットワーク・ツールの構築 ③ 所内体制・研修制度の構築

▽ 税理士の使命
税理士試験には税理士法がないので、税理士になってから税理士法を読む人が多いのではないでしょうか。しかし、税理士法は税理士のアイデンティティを明確に定義しているのでとても重要です。「なぜ税理士になったのですか?」は人それぞれだと思います。しかし「なぜ税理士制度は必要なのですか?何のために税理士は存在しているのですか?税理士は社会にどんな貢献をしているのですか?」という問いかけはこの職業に就いている限り必要なのではないでしょうか。「脱税の仕方を教えるのが税理士の仕事だろ?」と平気で言ってくる方も中にはおられます。ですから、この問いから逃げ出すと自分自身がとても卑屈になってしまうのです。そして、その答えのヒントが税理士法第一条にあると私は考えています。専門家として「独立した公正な立場」において「納税義務者の信頼」にこたえ「納税義務の適正な実現」を図るという使命。これが第一条です。また、税理士は仕事を通じて多くの人々から相談を受けます。出会った人々の人生に大きな影響を与える存在でもあるのです。社会的責任も大きい分、それだけ喜びも大きいのが税理士の仕事です。社長と一緒に経営計画を立てる。毎月訪問して業績検討をする。業績が良かったり、悪かったり、喜び、悲しみを共有しながらお客様と一緒に成長できるのが税理士の仕事です。

▽受験生に最後に一言
チャンスは誰の前にもやってきます。でもつかまえられるのは努力している人だけです。なぜなら、準備万端の受け入れ態勢がなければ、チャンスはやっかいなお荷物にしか思えないからです。受験時代の重苦しさをやっかいだと考えないでください。合格を死んでも離さない根性が大きな仕事をあなたにもたらし、自分自身が成長するきっかけをプレゼントします。受験生だからといって、いいかげんな仕事をしないでください。でないと本当に欲しかったチャンスが目の前に現れた時、自分に勝負するだけの力量がついてないことに愕然とします。大いなる希望を持って税理士を目指してください。社会は我々税理士の貢献を強く望んでいますし、期待しています。

「会計人コース」2004年9月号 寄稿

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