| この記事で一番お伝えしたいこと |
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| KSK2が始まる今、税務行政ではデータ活用が進んでいます。 「経理や税理士に任せているから大丈夫」と考えるだけでなく、社長自身が数字の変化やその理由を把握し、説明できることが大切です。 そのために、資料やデータを日頃から整理しておくことが重要です。 |
「うちは大丈夫」と思っていた、ある工務店社長の税務調査
※以下は、税務調査で起こり得る場面を分かりやすくするために作成したフィクションです。
山梨県内で工務店を経営するA社長、58歳。従業員は10人以下。
現場のことなら誰よりも詳しく、長年の経験から「仕事のことなら、大体分かるよ」という自負があります。
経理は長年勤務する担当者が行い、毎月、会計事務所の巡回監査も受けています。申告もきちんと行っており、不正をする意図もありません。
ただ、A社長は数字があまり得意ではありません。巡回監査でも、「今月の売上は?」「利益は出そう?」「税金はいくらくらい?」と、大まかな数字を確認する程度でした。
そして、「うちは小さい会社だし、経理も税務も任せているから大丈夫」という安心感もありました。
最後に税務調査を受けたのは10年以上前。
A社長は、「税務調査は、大きな会社や何か問題のある会社に入るものだろう」と考えていました。
そんなある日、会計事務所からA社長に、税務調査が入ることを伝えました。
| A社長 「毎月ちゃんと見てもらっているから大丈夫でしょ。帳簿も経理の人がちゃんとやっているし。何かあれば説明してもらえばいいよ」 |
もちろん、会計事務所でも事前に帳簿や申告内容を確認します。A社長も「特に悪いことをしているわけじゃないんだから、大丈夫だろう」と思っていました。ところが実際に調査が始まると、A社長が想像していたものとは少し違っていました。
次は交際費です。「この飲食代は、どなたと、何のために使ったものですか?」と聞かれました。店の名前には覚えがあります。しかし、半年以上前のことで、誰と行ったのかまではすぐに思い出せません。領収書にも店名と金額しか残っていませんでした。
| A社長 「たぶん取引先だったと思うんですけどね……」 |
半年、一年前の飲食をすべて記憶しておくのは現実的ではありません。だからこそ、使ったときに取引先名や目的を簡単に残しておくことが大切です。
さらに、「前年と比べて外注費が増えていますが、何か理由がありますか?」「この工事はほかの工事より利益率が低くなっていますが、何か特殊な事情がありましたか?」と聞かれます。
実際には、大型工事が重なって自社の職人だけでは対応できず、外注業者を増やした時期がありました。契約後に材料価格が上がり、予定より利益が出なかった工事もありました。理由はちゃんとあったのです。
しかしA社長は、それを決算書の数字と結び付けて考えていませんでした。
| A社長 「詳しい数字は経理に聞いてください。……いや、現場の事情は経理では分からないか」 |
A社では、小規模な修繕工事などで、お客様から現金で代金を受け取ることもありました。経理担当者へ渡されたものは売上として処理されています。
ただ、「現場で誰が受け取るのか」「いつ経理担当者へ渡すのか」「誰が領収書を発行するのか」「どのように会社へ報告するのか」という流れを、A社長自身がきちんと把握していたわけではありませんでした。
| A社長 「昔からこのやり方なんですよ」 |
売上を隠そうとしていたわけではありません。ただ、昔からのやり方を続けていただけでした。
結果として、会社の処理すべてが否定されたわけではありません。説明できなかったこと自体で税金が増えたわけでもありません。ただ、確認の結果、一部の処理を見直す必要があり、その部分については追加の税負担が発生しました。さらに、過去の資料を探したり、社員に数年前の状況を確認したりすることにもなりました。
それだけではありません。過去資料を探す時間、社員への確認、会計事務所との打ち合わせ。そして「きちんとやっていたつもりなのに、なぜ自分の会社のことを説明できないんだろう」という精神的な負担も残りました。
| A社長 「別に悪いことをしていたつもりはないんだけどな。でも、聞かれてみると、自分の会社なのに説明できないことが結構あったよ」 |

図1 税務調査で社長が説明に困りやすい代表的な場面
なぜ今、この話をするのでしょうか?
調査が一段落した後の巡回監査で、A社長は担当者にこんな疑問をぶつけました。ここからは、二人の会話を通してKSK2について見ていきます。
| A社長 「でもさ、交際費の中身とか、外注費が増えた理由とか、現金の流れを聞かれるのは、昔から同じなんでしょ?」 |
| 会計事務所 「はい。そこは昔から変わりません」 |
| A社長 「じゃあ、なんで今、こういう話をするの?」 |
| 会計事務所 「一つのきっかけが、2026年9月24日に予定されている国税システムの更改、つまり次世代システム『KSK2』への移行です」 |
| A社長 「KSK2? また難しいシステムの話?」 |
| 会計事務所 「難しいことを覚える必要はありません。簡単に言えば、税務の仕事を支えているシステムが進化する、という話です」 |

図2 KSK2の仕組みを経営者向けに簡単に整理
| 会計事務所 「今のKSKも、全国の国税局と税務署をネットワークで結び、地域や税目を越えて情報を一元的に管理しているシステムです」 |
| A社長 「じゃあ、今までも税務署ごとに情報がバラバラだったわけじゃないんだ?」 |
| 会計事務所 「そうです。KSK2になって初めて全部がつながる、という話ではありません」 |
| A社長 「じゃあ、何が変わるの?」 |
| 会計事務所 「大きく3つ変わります。 一つ目は『紙からデータへ』。紙で提出された申告書などもAI-OCRで読み取り、データ化・イメージ化します。 二つ目は、法人税や消費税など、税目ごとに分かれていたデータベースやシステムをまとめ、縦割りの仕組みを見直すこと。 三つ目は、独自OSを使う大型コンピュータ中心の仕組みから、市販の汎用的なOSを使う新しいシステムへ入れ替えることです」 |
| A社長 「なるほど。でも、それでうちの会社には何が関係するの?」 |
| 会計事務所 「KSK2は、国税庁がよりデータ中心で事務を進めるための土台です。申告書などの情報をデータとして扱いやすくし、税目ごとに分かれていたシステムも統合していきます」 |

図3 KSK2と税務行政のデータ活用のイメージ
※図は概念図です。KSK2への切り替えによって会社の帳簿データが自動的にすべて国税当局へ送られるわけではなく、AI・データ分析もKSK2とは別の取組です。
| A社長 「それって、AIが全部の会社を自動で調べるようになるってこと?」 |
| 会計事務所 「そこは分けて考えた方がいいです。KSK2について国税庁が公表している主な内容は、『紙からデータ』『税目別システムの統合』『システム基盤の刷新』です。AI・データ分析による調査先の絞り込みは、これとは別の取組です」 |
| 会計事務所 「一方、国税庁はAI・データ分析を税務調査にも活用しています。AIで調査必要度の高い法人を抽出し、申告書や資料情報などと併せて分析したうえで、最終的に調査するかどうかは調査官が判断します」 |
| A社長 「じゃあ、前年と数字が大きく変わっただけで、税務調査になるの?」 |
| 会計事務所 「いいえ。前年と数字が大きく変わっただけで、税務調査になるという意味ではありません。AIの分析結果だけではなく、申告書や資料情報なども併せて検討されます。だからこそ会社側は、数字が変わったときに『なぜそうなったのか』を説明できる状態にしておくことが大切なんです」 |
では、会社側は何をすればいいのでしょうか?
| A社長 「それで、うちみたいな会社は何をすればいいの? KSK2対策みたいなものが必要?」 |
| 会計事務所 「特別なことは必要ありません。今回の税務調査で困ったことを、普段から少しずつ整理しておけばいいんです」 |
| A社長 「交際費とか、外注費とか、現金の流れとか?」 |
| 会計事務所 「そうです。全部、昔からある話です」 |

図4 日頃から確認・共有しておきたい5つのポイント
| 会計事務所 「例えば、私が巡回監査で『今月は外注費が前年より増えています』とお伝えしたとします。そのときに社長が『大型工事が重なって、人手が足りなかったから外注を増やしたよ』と話してくれれば、それだけでも違います」 |
| A社長 「粗利益率が下がっていたら、『あの工事は契約後に材料が値上がりした』とか?」 |
| 会計事務所 「そうです」 |
| A社長 「交際費なら、誰と何のために行ったかを残しておく」 |
| 会計事務所 「はい」 |
| A社長 「領収書や契約書などは、後から確認できるようにしておく。現金なら、誰が受け取って、どう経理に渡すかを決めておく」 |
| 会計事務所 「そのとおりです」 |
| A社長 「なんだ。もっと特別なKSK2対策をしなきゃいけないのかと思ったよ」 |
| 会計事務所 「KSK2のためだけに何か特別なことをする、という話ではありません。日頃から会社の中を整理整頓しておくことが、一番の備えなんです」 |
「数字」は会計事務所が見る。「その理由」は社長が伝える
| 会計事務所 「社長が税理士のように税法を勉強する必要はありません。毎月すべての勘定科目を見る必要もありません。数字の変化はこちらで見ます」 |
| A社長 「じゃあ、俺は?」 |
| 会計事務所 「その数字を見て『そういえば、こんなことがあった』と思い当たったら、その一言を教えてください」 |
| A社長 「会計事務所が数字を見る。俺が、その理由を話すってことか」 |
| 会計事務所 「はい。それで十分です」 |
A社長は、以前の巡回監査を思い出しました。「粗利益率が下がっています」「外注費が増えています」と言われたとき、自分はいつも「細かいところは任せるよ」と答えていました。
でも、会計事務所が知りたかったのは、社長に会計処理をしてほしいということではありませんでした。数字の背景にある「現場で何が起きていたのか」を知りたかったのです。
次の巡回監査で、A社長の一言が変わりました
翌月の巡回監査。担当者が試算表を見ながら言いました。
| 会計事務所 「社長、今月は外注費が少し増えていますね」 |
以前なら、「細かいところは任せるよ」で終わっていたかもしれません。
| A社長 「あ、それね。今月は大きい現場が二つ重なって、人が足りなかったから外注を増やしたんだよ」 |
| 会計事務所 「分かりました。そういう現場の事情を教えていただけると、数字と会社の実態がつながります」 |
| A社長 「こういうことを話せばいいんだな」 |
| 会計事務所 「はい。その一言が大切です」 |
最後に
KSK2が始まるからといって、必要以上に怖がる必要はありません。特別な税務対策を始める必要もありません。社長が難しいITや税法を覚える必要もありません。
会計事務所が「数字」を見る。社長が「その理由」を伝える。
そして、領収書や請求書などの資料、交際費の記録、現金の流れ、数字が大きく変わった理由を、普段から整理しておく。
A社長が税務調査を経験して気付いたのは、結局そこでした。
| A社長 「『うちは小さい会社だから大丈夫』じゃなくて、『聞かれても説明できるから大丈夫』って言える会社にしておくってことだな」 |
| 会計事務所 「そうです。2026年9月24日に予定されている国税システムの更改(KSK2への移行)を、そのためのきっかけにしていただければ十分です」 |
大切なのは、社長自身が数字の変化やその理由を把握し、聞かれたときに説明できることです。
そのためにも、資料やデータを日頃から整理しておく。
それが、これからの税務調査への現実的な備えです。
※本記事は2026年8月18日時点の国税庁等の公表情報を基に作成しています。制度・システムの予定は今後変更される可能性があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の税務判断は取引内容や事実関係により異なります。具体的な取扱いについては、税理士等の専門家へご確認ください。