中小企業の皆さまに関係が深い「税制優遇(税額控除・特別償却・軽減税率)」は、2025年度(令和7年度)税制改正で大きく見直され、多くの制度が【2年間延長(〜2027年3月31日まで)】されました。一方で、対象範囲や税率の細かな条件変更も行われ、従来の計画をそのまま適用すると控除額が縮小する、申請手順が増えるなどの“思わぬ落とし穴”もあります。本ページでは、2025年度改正のうち中小企業に実務影響が大きいポイントを、最新の公表資料に基づき、わかりやすく整理します。
中小企業の税優遇とは、投資・賃上げ・資源循環・防災等の分野での取組みを促すため、法人税・固定資産税の負担を軽くする特例の総称です。2025年度改正では、景気・物価動向や成長投資の後押しの観点から、設備投資関連の2制度(中小企業投資促進税制/中小企業経営強化税制)と、中小法人の所得のうち「年800万円以下部分」を本則19%から軽減する法人税の特例が、いずれも2年間延長されました。さらに、経営強化税制は「売上高100億円超を目指す中小企業」を後押しする新メニュー(建物・附属設備への特別償却・税額控除)が追加されています。
対象:資本金1億円以下の中小法人 等(ただし、みなし大企業に該当する法人や、グループ通算法人等は対象外)。
内容:年800万円以下の所得金額に対して、法人税率を本則19%→15%に軽減。適用期限は2年延長され、2027年3月31日までに終了する事業年度まで適用可能。
新ルール:当期の所得金額が「年10億円超」の事業年度は、年800万円以下の部分についての軽減税率が【17%】(従来の15%ではなく)に。
みなし大企業:資本金1億円以下でも、大企業に過半数以上を保有されるなど一定の支配関係にある法人は、各種「中小企業税制」の適用対象外となる場合があります。2025年度改正では、投資促進税制・経営強化税制に限り、農地所有適格法人の一部についてみなし大企業判定の緩和が行われました(一般の中小法人には直接関係しません)。
通算グループ:グループ通算制度の適用法人は、中小企業向けの軽減税率の対象外です。
対象:資本金1億円以下の中小企業者等、または従業員数1,000人以下の個人事業主。
内容:機械装置等の指定設備を取得し、指定事業の用に供した場合に、取得価額の30%の特別償却、又は7%の税額控除(個人・資本金3,000万円以下の法人が対象)を選択適用。適用期限は2027年3月31日まで延長。
内容:経営力向上計画の認定を前提に、A類型(生産性向上設備)・B類型(収益力強化設備)・D類型(経営資源集約化設備)・E類型(経営規模拡大設備)のいずれかで設備投資を実施する場合、即時償却または税額控除(資本金3,000万円超は7%、3,000万円以下は最大10%)を選択適用。適用期限は2027年3月31日まで延長。
拡充点:「売上高100億円超」を目指す中小企業の投資計画に限り、建物・附属設備も対象化(特別償却最大25%または税額控除最大2%)。達成要件(給与支給額増加等)との連動に注意が必要です。
青色申告の中小企業等が、前年度比で給与等支給額を一定割合以上増加させた場合、その増加額の一部を法人税(または所得税)から税額控除できます。教育訓練費の増加や子育て・女性活躍支援に取り組むと控除率が上乗せされる仕組みで、控除上限は原則として法人税額の20%。申告時の別表(別表六(31)等)の記載誤りが散見されるため、公式ガイドブックと様式の確認を推奨します。
□ 決算月の確認:改正の「適用開始:2025年4月1日以後開始事業年度」・「適用期限:2027年3月31日まで」にかからないか。
□ みなし大企業・通算グループ該当性の確認(資本関係・支配関係・通算の有無)。
□ 投資税制は「対象設備・金額要件・取得前の証明(工業会証明 or 大臣確認)」の順に漏れなく確認。
□ 経営強化税制の建物・附属設備の適用は「給与支給額増加の目標達成」が条件。未達なら建物等は適用不可。
□ 賃上げ促進税制は、賃金台帳・教育訓練費の根拠・就業規則等の整備と別表の記載ミス防止を。
□ 固定資産税の特例は自治体条例の指定設備・申請期限を事前に要確認。
Q1.軽減税率15%はいつまで?どの決算から?
A1.2025年4月1日以後に開始する事業年度から、2027年3月31日までに終了する事業年度までが延長対象です。
Q2.「年10億円超」の判定は連続か単年か?
A2.単年判定です。該当する事業年度のみ、年800万円以下部分の税率が17%となります。
Q3.中小企業投資促進税制と経営強化税制、どちらを使うべき?
A3.即時償却の有無、対象設備、事前手続、控除率の違いから、投資規模・資本金区分・人件費計画で最適解が変わります。計画段階で比較表を作るのがおすすめです。
Q4.みなし大企業かどうかの判断基準は?
A4.資本金1億円以下でも、大企業に株式を2分の1超保有される等の支配関係がある場合は該当します。制度ごとに取扱いが異なる点にも注意が必要です。
Q5.賃上げ促進税制の控除上限は?
A5.原則として法人税額の20%(繰越控除の適用と合わせて20%が上限)です。
2025年度改正では、中小企業の税優遇は概ね「2年延長」されましたが、軽減税率に「年10億円超=17%」が導入され、経営強化税制は建物等の対象化と引き換えに達成要件が厳格化するなど、実務の難易度はむしろ上がっています。決算・投資・賃金計画を横断して早期に設計し、適用可否・証憑・申請手順を事前に固めることが、最大限の効果を得る近道です。