今回は、沖縄のお墓事情について、お話しします。
沖縄県内では、いわゆる「墓じまい」をする人が年々増加しています。
「墓じまい」とは、市町村の許可を得て墓の遺骨を別の墓へ移す改葬のことですが、実際には、個人墓から管理型墓地へ改葬することです。
「墓じまい」率が、10年ほど前から全国平均より上回り、令和5年の統計では、全国平均の約3倍、4841件に上りました。 どうしてなのでしょう。
公益財団法人・沖縄県メモリアル整備協会の堤純一郎理事長(琉球大学名誉教授)を取材(那覇法人会会報・2025年若水号)させていただいた際、こんな事情を教えてくださいました。
■本土と違う宗教観
沖縄県内で「墓じまい」が増加しているのは、伝統的なお墓の在り方が本土と違うところに、かなり大きな原因があるのだそうです。
本土の場合、宗門人別帳や檀家制度など、江戸時代からお寺が中心の社会で、お墓の在り方も、仏教のもとで設計されてきました。
ところが、沖縄県は、琉球王国の時代からトートーメー(先祖崇拝)を中心とした宗教の社会で、お墓は、門中(もんちゅう=父系血族)が中心となって現在まで引き継がれています。
ですから、本土では、お寺などの管理型墓地(自治体、公益法人、宗教法人が管理する墓地)が普通です。
一方、沖縄県では、個人墓地である門中墓があちらこちらに点在しています。
協会が提供してくれた資料によりますと、県内すべてのお墓の、実に99・2%が個人墓地です。管理型墓地が当たり前の本土と事情が全く異なります。
亀甲墓=写真=など古い形態のお墓は、沖縄の伝統文化のひとつです。
しかし、門中によってお墓を維持管理できていれば問題はなかったのですが、戦後から今日にかけて、家族の形態が劇的に変わりました。
それに伴い、「門中といっても顔を知らない人ばかり。同じお墓に入りたくない」「父系血族の門中墓には抵抗がある」「自分の墓は自分でつくりたい」など門中の中で考え方が多様になってしまったのです。
それが、「墓じまい」が増加している大きな原因のひとつになっているそうです。
実は、深刻な事態にもなっています。 門中が「保全はもういいです」とばかりに、お墓を改葬しないまま放り出してしまい、お墓の面倒をみる継承者がいなくなって、無縁墓となってしまうケースがずいぶんあるのだそうです。
沖縄県内のお墓は点在し、99・2%が個人墓ですので(本土のように管理された墓地にあるわけではありませんので)
お墓の無縁化は即、「所有者不明土地」の増加を意味します。つまり、無縁墓の増加は、深刻な経済損失につながってしまうのです。
■ 難しい無縁墓の判定
沖縄県内の各地の傾斜地などで、雑草が伸びるにまかせている古いお墓を見かけることがあります。
あれが、いわゆる無縁墓かと思いきや、そういうわけでもないそうです。
そのようなお墓であっても、まだ使っているケースがあり、逆に、割ときれいに見えても、だれも墓参に来ないという場合もあるのだそうです。
ですから、本当に無縁かどうかを判定することがまず、大きなポイントなのですが、それが、たいへん厄介だとか。
都市計画道路を通すときや、米軍基地の返還整備計画を進める際など、無縁墓かもしれないお墓が障害になっていまう場合がけっこうあるそうで
す。市町村が担当になるのですが、官報に載せて、そのお墓の所有者からの連絡を1年間も待つなど、時間と労力がとてもかかります。
その上、無縁と判定された場合、そのお墓の遺骨は、市町村の責任で共同埋葬地に合祀し、その無縁墓を平地にします。
つまり、経費がかかります。そこに税金が使われるわけです。
そこで、協会や自治体は、無縁墓をつくらないように「改葬の受け入れ先および社会の変化に対応する持続可能な公営墓地モデルを検討する」
「個人墓地の登記と市町村への届け出の義務化」などの取り組みを強めているそうです。
沖縄各地をドライブすると、沖縄ならではのお墓を見かける機会があると思います。
そこでは、季節になると、シーミー(清明祭)などの伝統行事が営まれます。
そのような文化を守り続けてほしいなぁ、と思ってしまいますが、門中の皆さんの中では、深刻な事情が忍び寄ってもいるようです。