2024年

2024/12/2 真実はいつもひとつ・・・なのか?

2024/12/2 真実はいつもひとつ・・・なのか?

アメリカ大統領選挙、衆議院選挙、某県の知事選挙と、注目を集める選挙が続きました(まだ色々と「続き」がくすぶっていますが・・・)
政治的なことはビジネスの話題としてはタブーですが、共通して感じたことを少し書いてみます。

最近は政治の場面において、「極端な思想(ある意味ではシンプルな思想)がウケる」、「自分以外の思想を認めない(自分の思想だけが正しく、相手の思想は誤っている)」、「SNSによる情報戦を制したものが勝つ」「自分は民意で選ばれたから何をしてもOK」・・・、このようなことがいずれにも共通していることなのではないかと感じます。
私は、これらの考えには、相手のことを思いやり、たとえ自分とは異なる考え方であっても、相手の考え方や思想を尊重し理解しようとする姿勢が不足しているのではないかと思っています。

それを助長しているのがスマホであり、SNSなのではないか?と感じます。
SNSやインターネットの検索エンジンの恐ろしいところは、「自分にとって都合のいい情報」「自分にとって心地よい情報」「自分の思想を補強・支えてくれる情報」を拾ってきてしまうことで、恐ろしいのは自分が「操作された情報の中にいる」ということに本人が気が付いていないことだと思います。
自分は意識しなくても、自分の脳が喜ぶものだけを取り入れる、だからそれこそが「唯一の真実」だと信じてしまう・・・、こういうことが起こっているのではないかと思います。

そして、SNSをはじめとするサイバー空間では「相手の顔が見えない」という特殊性もあり、相手に対して必要以上に攻撃的になるという傾向もあるのではないでしょうか。
極端な思想は究極的には、対立する思想の「排除」につながります。
分断・対立・排除・自国(自分)中心主義・・・、これは世界大戦以前に人類が犯してきた過ちそのものではないのか、その過ちから人類は学び、話し合いによる協調・調和を目指してきたのが世界大戦後の世界であったのではなかったのでしょうか。
以前は、武力こそが覇権であったわけですが、今は情報を制する者、つまりそれは「人間の脳を支配する者」こそが、覇権を握ることになるのだと思います。

会計の世界においても、「真実は何か?」ということは問われます。
「真実はいつもひとつ!」という有名なアニメのセリフがありますが、会計における真実は唯一絶対の真実ではなく、相対的な真実であるとされています(企業会計原則-真実性の原則を参照)。
それは、「会計は記録された事実と慣習と判断の総合的な産物」であるからとされています。
目の前にある証憑だけを見ても、会計上の真実にはたどり着けないことは多々あります。

情報の洪水の現代に生きる私たちは、目の前の現象・物事が「唯一絶対の真実!」と信じ込むのではなく、それが誰か(AI等含む)に操作されているかもしれない情報であることや、時に自分とは反対の視点、相対的な視点で現象・物事を捉えてみる姿勢が必要なのではないでしょうか。

【参考文献】
アンデシュ・ハンセン(久山葉子訳) スマホ脳 2020年 新潮社

2024/9/9 頭に残っている言葉・教訓3選

2024/9/9 頭に残っている言葉・教訓3選

人から言われて、頭に残る教訓・言葉ってありますよね。
会計士になってから、たくさんの人に出会う機会がありましたが、その中で「(いい意味で)妙に頭に残っている教訓・言葉」を3つ、紹介したいと思います。

①「守・破・離って知ってるか。まずは考えずに、真似しなさい。」


 会計士が行う監査の仕事というのは、監査をしてその結果・判断を「監査調書」というものにまとめることが大事な仕事です。
 実務経験が浅いころ、その監査調書で「何か工夫をしてやろう」という発想が強かったのですが、知識も経験もないので、結果的には工夫のしようもなく、かえってよくわからない監査調書を作ってしまった時に言われた言葉です。
 新しいことに取り組むときは「まずは真似してみる」というのはとても大切なことだと今も思っています。いつまでも「守」ではいけないこともまた事実ですが。

②「(あいつは本を読まないけど)新書を読む癖って大事だよな。」


 東京で仕事をしていた時には、車でクライアントへ訪問する機会はほとんどなく、多くの場合、電車に乗ってクライアントまで向かっていました。
また、会計士の仕事は地方工場の監査など出張も多く、新幹線での移動も多いです。ですので、移動時間をどうやって過ごすか?というのは結構重要な課題でした。
 当時も既にスマートフォンはありましたが、それほどの情報量を扱えなかったので、私は移動時間に新聞や雑誌を読んでいたように記憶していますが、移動中、あまり読書をしない同僚の話題になった時に聞いた言葉です。

 確かに新書は、専門家の方が一般向けに専門的・最新の内容を分かりやすく(?)解説しているので、私も「時々」読んではいます。
仕事上、様々な業種のクライアントを担当しますから、その分野の知識を得るにはうってつけです。
私も「時々」じゃなくて、「新書を読む癖」をつけないといけないですね。

③「何か変だと思うか?君は会計士なんだ。会計士なんだから疑問に思ったことは自信を持ってクライアントにぶつけなさい。」


 まだ会計士試験に合格したばかりのころ、クライアントの棚卸立会の時に言われた言葉です。
棚卸というのは、カウント漏れが生じないように、ロケーションの端から端へ、順番にカウントをしていくのが原則なのですが、クライアントの方がしれっと、カウントをスルーしたものがありました。
スルーした時に私は「あれ・・・?数えなくていいのかな?あれなんだろう?」と思ったのですが、自信がなくてモジモジしていたのだと思います。
その状況を見ていた先輩会計士の方が仰ったのがこの言葉です。
実際このことがきっかけで、不良在庫が発見されて、意義のある棚卸立会になりました。

 AIやデータサイエンス全盛の時代には時代遅れかもしれませんが、私はやっぱり現場では「素直(純粋)な感覚」「勘」「シックスセンス」のようなものも大事だと思います。
 「あれ?なんか変だぞ(根拠はないけど)」「(数値は整合しているけれども)なんか納得できない」そういう感覚・感性はこれからも大切にしたいし、その感覚・感性を磨けるようにしたいと思っています。
将来的にはそんな感覚すらAIは学習してしまうのかもしれないけれど・・・。

2024/9/4 忙しさとタイパ重視で失うもの

2024/9/4 忙しさとタイパ重視で失うもの

私は12月~8月までが繁忙期と個人的に感じていて、それがもう何年も続いています。

仕事はしっかりとしているつもりですが、特にここ2、3年、自分が新しい知識を得たり、将来のことを考えたりする時間をしっかりととれていないと感じています。それはもしかしたら、時間がないことを言い訳に、勉強をしたり考えることから逃げているだけかもしれない、そう感じることもあります。

「忙しい」ということに自分が囚われてしまうと、時間とともに精神的な余裕も失います。
効率(タイパ)を重視しすぎると、思考する力や発想力を失うと感じます。

読書をしていて昔から感じていることですが、(他の方は分からないですが)私は「すぐ分かる!○○」「あらすじで読む××」のような古典的名著を要約したような本(タイパ重視の本)を読んで、その内容が身になったということが今までの経験上、ありません。
(「逆」、つまり一旦原書を読み、その後で要約本を読むのは新たな視点を得たり、全体の整理ができるので良いと思います)
動画の倍速再生も、私は全く頭に内容が入ってきません・・・。

このブログもしばらく更新から遠ざかっていました。
ブログを書くことも考えるエネルギーと時間を使うのですが、しかしそれも大事なインプット兼アウトプットだと思います。

繁忙期が一区切りついたところで、反省をして、少し考え方を変えようと思っているところです。

"社会的に忙しい者は個人的内省が薄れやすい"-安岡正篤

2024/4/3 「あの件」を不正のトライアングル理論で考えてみる

2024/4/3 「あの件」を不正のトライアングル理論で考えてみる

野球界のスーパースターを襲ったあまりにも衝撃的な事件がありましたので、今回取り上げてみることにしました。
私もこのニュースが出てから、数日は(全然関係ないのに)心がざわついていました。

現在捜査中の案件ですので、具体的な名称や内容についての断定は避けつつ「不正」という観点から、少し考えてみたいと思います。

今回の件、これまで報道されていることが事実だとすれば、一般的には使用者(従業員)による横領行為であり、それは不正の一環であると考えられます。
「なぜ不正が発生したか?」については、端的には「ギャンブル依存症による借金があったから」ということになろうかと思いますが、それはあくまで個人の内心(動機)であり、それだけでは不正が実際に発生した事実を説明できません。
「なぜ不正行為が発生したか?」を整理する理論として有名な「不正のトライアングル理論」を使って簡潔にトライアングル分析をしてみます(*1)。
この理論では、「不正を働く動機」「不正を働く機会」「正当化(誠実性の欠如)」の全ての要因が揃った時に人は不正を働くと考えます。
実際に当てはめてみると・・・、

動機:ギャンブルで作った借金があり返済を迫られている(しかし手元に金がない)

機会:他人の銀行口座を一定範囲で操作できる権限を与えられている(その権限が適法か違法かは不明)

正当化:自分はギャンブル依存症だから仕方ない or 彼のライフスタイルに自分の給与がついていけなかった(周りがスーパスター、億万長者という環境)

・・・というように、不正のトライアングルが完成してしまうので不正が起こったと説明することもできるかと思います。

今回の事件の金額は、いち個人が扱う金額としてはあまりにも巨額で、私たち一般人からすると想像もつかない金額なのですが、あえて何か学びを・・・ということで考えてみます。
不正防止の観点からは、不正のトライアングルのうち、「機会」をいかに抑え込むかということが極めて重要なポイントです(*2)。
組織で言えばそれはいわゆる「内部統制」であり、具体的には職務分掌、権限の分散化、職務を属人化させない、ということです。
今回のことで言えば、彼に多額の送金ができるまでの権限が(適法か違法かは不明でも)「結果的に」与えられてしまっていたということが「機会」であり、その隙をつかれたということになります。

悲しいことですが、どんなに信じていても「信じ過ぎてはいけない」ということです。結局それは不幸を招いてしまうのだと、改めて感じます。
不正調査の分野では、人間の性質について、本質的に人間は弱いという、「性弱説」で物事を考えるべきと言われます。
個人が追い詰められたり、心身が弱っている時にはなおさら、不正を犯してしまう可能性が高まります。

私が常々、思っていることですが、不正は絶対に誰も幸せにしません・・・。

”罪を犯す者は自分自身に対して罪を犯すのである。不正な者は、自分を悪者にするのであるから、自分にたいして不正なのである"(*3)


この問題が解決し、再び彼が私たちに大きな希望と夢を与えてくれるプレーをしてくれることを心から願っています。
来年の大リーグ開幕戦は是非エスコンフィールドでお願いします!!

(*1)不正調査の体系的な理解として、例えば、株式会社KPMG FAS「企業不正の調査実務」中央経済社 2012年
(*2)動機や正当化というのはその不正実行者個人の置かれている環境や内心の問題ですので、外部からコントロールするのは難しいとされます。

(*3)マルクス・アウレーリウス著 神谷美恵子訳「自省録」岩波書店 p170

2024/3/22 納税の権利と義務

2024/3/22 納税の権利と義務

本年も何とか確定申告が終わりました。
この時期は個人の税金について、色々と考えさせられます。

税制(税金)というのは、ふと考えてみると根本的な疑問がたくさん出てきます。「そもそも」過ぎるかもしれませんが、例えば・・・、

  • なぜ国民は税金を納めなければならないのか?
  • なぜ所得の高い人ほど高額な税金を納めなければならないのか?

こういったことに興味を持つことが、国民の納税に対する意識を高める一つのきっかけになるのではないかと思います(この話はまた別の機会に当Blogで)。

翻って、一般的に日本人の納税意識は世界の他国に比して納税に対する意識が低いと言われます。
その原因はの一つには、給与所得に対する源泉徴収制度・年末調整制度があまりにも浸透しすぎていて、日本人の意識の中には税金は「納めるもの」ではなく、「取られるもの」という意識がありすぎるのかもしれません。
私も恥ずかしながら、公認会計士という職業でありながら、監査法人勤務時代は自分で確定申告をしたことがありませんでした・・・。

確定申告や納税をすることは、ある意味では、自分の仕事に対する誇りであり、仕事の一部なのだろうなと思います。素晴らしいことだと思います。
権利の裏側には義務があると言いますが、逆に「申告・納税の義務を果たすのだから、権利を行使できる」ということも言えるのではないかと思うのです(納税をしないから権利がないと言っているわけではありません)。

長い冬と確定申告が終わると春です。
流氷の離岸や雪解けは、北海道らしい春を感じる景色です。
もう20年以上も前ですが、大学生になって東京で見た満開の桜も、今でも鮮明に覚えている思い出です。

皆様にとって、良い春となりますように。

2024/1/15 令和6年度税制改正大綱とEBPM

昨年12月14日に公表された、令和6年度税制改正大綱については、既に多くの解説がなされていますが、特に弊所のお客様に影響がありそうな項目をピックアップしてみました。

・所得税、住民税の定額減税
・18歳までの児童手当の延長と16歳~18歳までの扶養控除の縮小
・生命保険料控除(一般)の一部拡充(合計は変更なし)
・住宅ローン控除の子育て世帯等に対する控除の拡充等
・住宅取得資金贈与に係る贈与税の非課税措置の延長
・賃上げ税制の拡充(教育訓練、女性子育て支援、赤字年度の控除繰越)
・交際費の損金不算入制度の除外措置枠拡大
・中小企業投資損失準備金制度の拡充(中小M&A促進)
・倒産防止共済に係る損金算入の特例(所得税も同様)
・法人版事業承継税制(特例)計画提出の期限延長
・インボイス制度に係る自販機特例の簡素化

・・・といったところでしょうか。
いずれについても抜本的な改正というよりは、場当たり的な、増税したいのか減税したいのかよく分からない改正が多いなという印象です。
金額的な影響は大きくないのに計算が複雑になる、特に定額減税については実務対応が大変だ・・・ということを強く感じます(しかも、恒久的ではない措置のために!)
実務的な負担の軽減という意味では、インボイスに係る自販機特例での帳簿等への住所等の記載が必要なくなったことくらいでしょうか(苦笑)。

私はここ数年の税制改正大綱を読んでいて「その改正に(社会)科学的な根拠はあるのか?」ということがとても気になっています。
EBPM(Evidence-based policy making:証拠に基づく政策立案)という言葉がありますが、税制の議論においては果たして十分なEBPMが行われているのでしょうか?(*1
税法における各種所得控除の金額、例えば基礎控除48万円について、なぜ48万円なのか?それには(社会)科学的(統計学・経済学・社会学等)な根拠があるのか?
それは今の経済環境に照らして合理的なのか?等々・・・、その金額に対する必要十分な証拠があるのでしょうか?

また、法的な観点から考えてみると、例えば所得税法における基礎控除について、現行の所得税法における基礎控除は平成30年改正で、高額所得者については基礎控除がカットされるということになりましたが、本来基礎控除は、「憲法25条の生存権の保障の租税法における現われ」*2であるので、高額所得者であるからといって、これを所得基準によってカットする・・・というのはどうなのか、という議論もあるのではないでしょうか。

最近の税制改正を見ていると、税法における公正性・公平性と何か?税法が目指すべき正義とは何なのか?というような深い、骨太な考え方に基づくものではなく、専ら政治の状況によって場当たり的な改正、省庁間の予算の取り合いゲームに国民を巻き込んでいるように見えます。
場当たり的な改正でなく、しっかりとした考え方にとエビデンスに基づいた説明・改正、法律的な課題を十分に検討した改正を行うことが、「政策の有効性を高め、国民の行政への信頼確保に資する」*3と思うのですがね・・・。

*1経済産業省においては、研究開発税制の効果について研究調査を行うとされています。
*2金子宏 租税法(第24版)2021年・弘文堂 p.210
*3内閣府におけるEBPMへの取組 - 内閣府cao.go.jp

2024/1/1 新年のご挨拶

明け方の海岸

新年あけましておめでとうございます!


令和5年の今年の漢字は「税」でした。

インボイス、定額減税、防衛増税、子育て支援(扶養控除等)そして、税金滞納に政治資金収支報告書の問題と「税」が注目される1年だったことは間違いないでしょう。

ただ、どちらかというと「悪い意味」で注目されてしまったように思います。


特に国民の代表者・リーダーである方々こそ、率先垂範で税に対する姿勢を示してほしいものです。

私が常々思っていることですが、こと「税」に関しては「正直者が馬鹿を見る」ということだけは、国家の制度として絶対にあってはならないと思っています。

まして、国民の代表者・リーダーである(はず)の方々だけが得をする・・・そんな税制・法律・社会であって良いわけがありません。


この1月から施行される改正点のうち、電子帳簿保存法(電子取引)、改正相続時精算課税制度は、特に実務にも大きく影響します。

年々、税制は複雑になり、実務も難しくなってきていると感じていますが、皆様のお役に立てるよう、研鑽に励みます。


今年も「あなたに頼んでよかった!」、そう言っていただけるような仕事をしたいと思っています。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。


今年一年の皆様のご健康と、事業のご発展を祈念いたします!