野球界のスーパースターを襲ったあまりにも衝撃的な事件がありましたので、今回取り上げてみることにしました。
私もこのニュースが出てから、数日は(全然関係ないのに)心がざわついていました。
現在捜査中の案件ですので、具体的な名称や内容についての断定は避けつつ「不正」という観点から、少し考えてみたいと思います。
今回の件、これまで報道されていることが事実だとすれば、一般的には使用者(従業員)による横領行為であり、それは不正の一環であると考えられます。
「なぜ不正が発生したか?」については、端的には「ギャンブル依存症による借金があったから」ということになろうかと思いますが、それはあくまで個人の内心(動機)であり、それだけでは不正が実際に発生した事実を説明できません。
「なぜ不正行為が発生したか?」を整理する理論として有名な「不正のトライアングル理論」を使って簡潔にトライアングル分析をしてみます(*1)。
この理論では、「不正を働く動機」「不正を働く機会」「正当化(誠実性の欠如)」の全ての要因が揃った時に人は不正を働くと考えます。
実際に当てはめてみると・・・、
動機:ギャンブルで作った借金があり返済を迫られている(しかし手元に金がない)
機会:他人の銀行口座を一定範囲で操作できる権限を与えられている(その権限が適法か違法かは不明)
正当化:自分はギャンブル依存症だから仕方ない or 彼のライフスタイルに自分の給与がついていけなかった(周りがスーパスター、億万長者という環境)
・・・というように、不正のトライアングルが完成してしまうので不正が起こったと説明することもできるかと思います。
今回の事件の金額は、いち個人が扱う金額としてはあまりにも巨額で、私たち一般人からすると想像もつかない金額なのですが、あえて何か学びを・・・ということで考えてみます。
不正防止の観点からは、不正のトライアングルのうち、「機会」をいかに抑え込むかということが極めて重要なポイントです(*2)。
組織で言えばそれはいわゆる「内部統制」であり、具体的には職務分掌、権限の分散化、職務を属人化させない、ということです。
今回のことで言えば、彼に多額の送金ができるまでの権限が(適法か違法かは不明でも)「結果的に」与えられてしまっていたということが「機会」であり、その隙をつかれたということになります。
悲しいことですが、どんなに信じていても「信じ過ぎてはいけない」ということです。結局それは不幸を招いてしまうのだと、改めて感じます。
不正調査の分野では、人間の性質について、本質的に人間は弱いという、「性弱説」で物事を考えるべきと言われます。
個人が追い詰められたり、心身が弱っている時にはなおさら、不正を犯してしまう可能性が高まります。
私が常々、思っていることですが、不正は絶対に誰も幸せにしません・・・。
”罪を犯す者は自分自身に対して罪を犯すのである。不正な者は、自分を悪者にするのであるから、自分にたいして不正なのである"(*3)
この問題が解決し、再び彼が私たちに大きな希望と夢を与えてくれるプレーをしてくれることを心から願っています。
来年の大リーグ開幕戦は是非エスコンフィールドでお願いします!!
(*1)不正調査の体系的な理解として、例えば、株式会社KPMG FAS「企業不正の調査実務」中央経済社 2012年
(*2)動機や正当化というのはその不正実行者個人の置かれている環境や内心の問題ですので、外部からコントロールするのは難しいとされます。
(*3)マルクス・アウレーリウス著 神谷美恵子訳「自省録」岩波書店 p170
本年も何とか確定申告が終わりました。
この時期は個人の税金について、色々と考えさせられます。
税制(税金)というのは、ふと考えてみると根本的な疑問がたくさん出てきます。「そもそも」過ぎるかもしれませんが、例えば・・・、
昨年12月14日に公表された、令和6年度税制改正大綱については、既に多くの解説がなされていますが、特に弊所のお客様に影響がありそうな項目をピックアップしてみました。
・所得税、住民税の定額減税
・18歳までの児童手当の延長と16歳~18歳までの扶養控除の縮小
・生命保険料控除(一般)の一部拡充(合計は変更なし)
・住宅ローン控除の子育て世帯等に対する控除の拡充等
・住宅取得資金贈与に係る贈与税の非課税措置の延長
・賃上げ税制の拡充(教育訓練、女性子育て支援、赤字年度の控除繰越)
・交際費の損金不算入制度の除外措置枠拡大
・中小企業投資損失準備金制度の拡充(中小M&A促進)
・倒産防止共済に係る損金算入の特例(所得税も同様)
・法人版事業承継税制(特例)計画提出の期限延長
・インボイス制度に係る自販機特例の簡素化
・・・といったところでしょうか。
いずれについても抜本的な改正というよりは、場当たり的な、増税したいのか減税したいのかよく分からない改正が多いなという印象です。
金額的な影響は大きくないのに計算が複雑になる、特に定額減税については実務対応が大変だ・・・ということを強く感じます(しかも、恒久的ではない措置のために!)
実務的な負担の軽減という意味では、インボイスに係る自販機特例での帳簿等への住所等の記載が必要なくなったことくらいでしょうか(苦笑)。
私はここ数年の税制改正大綱を読んでいて「その改正に(社会)科学的な根拠はあるのか?」ということがとても気になっています。
EBPM(Evidence-based policy making:証拠に基づく政策立案)という言葉がありますが、税制の議論においては果たして十分なEBPMが行われているのでしょうか?(*1)
税法における各種所得控除の金額、例えば基礎控除48万円について、なぜ48万円なのか?それには(社会)科学的(統計学・経済学・社会学等)な根拠があるのか?
それは今の経済環境に照らして合理的なのか?等々・・・、その金額に対する必要十分な証拠があるのでしょうか?
また、法的な観点から考えてみると、例えば所得税法における基礎控除について、現行の所得税法における基礎控除は平成30年改正で、高額所得者については基礎控除がカットされるということになりましたが、本来基礎控除は、「憲法25条の生存権の保障の租税法における現われ」(*2)であるので、高額所得者であるからといって、これを所得基準によってカットする・・・というのはどうなのか、という議論もあるのではないでしょうか。
最近の税制改正を見ていると、税法における公正性・公平性と何か?税法が目指すべき正義とは何なのか?というような深い、骨太な考え方に基づくものではなく、専ら政治の状況によって場当たり的な改正、省庁間の予算の取り合いゲームに国民を巻き込んでいるように見えます。
場当たり的な改正でなく、しっかりとした考え方にとエビデンスに基づいた説明・改正、法律的な課題を十分に検討した改正を行うことが、「政策の有効性を高め、国民の行政への信頼確保に資する」(*3)と思うのですがね・・・。
(*1)経済産業省においては、研究開発税制の効果について研究調査を行うとされています。
(*2)金子宏 租税法(第24版)2021年・弘文堂 p.210
(*3)内閣府におけるEBPMへの取組 - 内閣府(cao.go.jp)
新年あけましておめでとうございます!
令和5年の今年の漢字は「税」でした。
インボイス、定額減税、防衛増税、子育て支援(扶養控除等)そして、税金滞納に政治資金収支報告書の問題と「税」が注目される1年だったことは間違いないでしょう。
ただ、どちらかというと「悪い意味」で注目されてしまったように思います。
特に国民の代表者・リーダーである方々こそ、率先垂範で税に対する姿勢を示してほしいものです。
私が常々思っていることですが、こと「税」に関しては「正直者が馬鹿を見る」ということだけは、国家の制度として絶対にあってはならないと思っています。
まして、国民の代表者・リーダーである(はず)の方々だけが得をする・・・そんな税制・法律・社会であって良いわけがありません。
この1月から施行される改正点のうち、電子帳簿保存法(電子取引)、改正相続時精算課税制度は、特に実務にも大きく影響します。
年々、税制は複雑になり、実務も難しくなってきていると感じていますが、皆様のお役に立てるよう、研鑽に励みます。
今年も「あなたに頼んでよかった!」、そう言っていただけるような仕事をしたいと思っています。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今年一年の皆様のご健康と、事業のご発展を祈念いたします!