2025年7月3日に公示され、20日に投開票される今回の参議院選挙では、物価高騰と実質賃金の低下を背景に、「消費税減税」が大きな争点の一つとして浮上しています。特に食料品価格の上昇が家計を直撃している中で、各政党はこぞって減税や給付策を打ち出し、有権者の支持を争っています。
しかし、若者や中高年の選挙離れが進む中、今回の参議院選挙への関心が高まるかどうかは不確実です。
一方、政府は6月の月例経済報告にて「景気は緩やかに回復している」と発表しているものの、現在の物価高騰と実質賃金の低下及び税金・社会保険料負担の増加により、多くの方々は景気の回復により豊かさを感じるどころか、逆に家計は苦しくなっている、あるいは将来に不安を感じている方も少なくないのではないでしょうか?
実際、7月7日に内閣府が発表した5月の景気動向指数による景気の基調判断は2020年7月以来の「悪化」となっております。つまり景気後退局面にある可能性が高いことを示しております。
この点につき、実は「税金や社会保険料」(以下、税金等)こそが、私たちの生活の豊かさに最も直結するテーマの1つであると考えております。特にこの7月の参議院選挙では税制改革や財政政策に関する議論が活発に行われ、選挙の結果は今後私たちの納める税金等の使い道や負担のあり方を大きく左右する可能性があるのです。
正に今後の「日本の命運を分ける」重要な選挙だと言えます。
そこで、税制や社会保障制度が複雑化・高度化する中で、当グループも皆様の税金等の計算をご支援する立場から、今回は税金と選挙の関係を掘り下げながら、私たちが豊かな生活を送るために、税制をはじめとする国政にどのように関与できるのかを取り上げたいと思います。
※本コラムはあくまで制度や政策に対する情報提供を目的としており、特定の政党・候補者への支持を示すものではありません。
「税金」とは、国や地方自治体が公共サービスを提供するための財源です。
主な税目には以下のようなものがあります。
〇 所得税:個人の所得に応じて課される税
〇 法人税:企業の利益に対して課される税
〇 消費税:商品やサービスの購入時にかかる税
〇 相続税・贈与税:財産の移転時にかかる税
これらの税収は、教育、医療、福祉、インフラ、防衛等、私たちの暮らしを支えるあらゆる分野に使われています。
ちなみに、令和6年度の日本国の歳入は、当初予算で約113兆円であり、その約62%(69兆6,080億円)は所得税や法人税、消費税等の「租税・印紙収入」つまり「税金」による収入です。そして残りの約32%(35兆4,490億円)は「公債金」、つまり国の借金となっています。
これを見れば、消費税が全体の予算の21.2%を占め、税収の中でも34.3%と最大の税収源であることが見て取れます。それだけに消費税制のあり方が、今改めて問われているとも言えるのです。
参議院は衆議院と並ぶ国会の一翼を担い、法律の制定や予算の審議に関与します。税制に関しても、以下のような重要な役割を果たしています。
〇 税制改正法案の審議・可決
〇 財政政策に関する議論
〇 税の公平性や持続可能性に関する監視
特に、与野党の勢力バランスが拮抗している場合、参議院の議決が税制改革の行方を大きく左右することがあります。
今回の参議院選挙では、「消費税減税」がクローズアップされておりますが、過去の選挙でも、税制は大きな争点となってきました。例えば以下のような事例があります。
〇 1989年:消費税導入直後の参院選で与党が大敗
〇 2010年:消費税率引き上げをめぐる議論が選挙戦の焦点に
〇 2019年:消費税10%への増税直前の選挙で、軽減税率やポイント還元策が争点に
これらの例からもわかるように、税制は選挙結果に大きな影響を与えるのと同時に、選挙結果が税制の方向性を決定づけるのです。
今回の参議院選挙は原則10%の消費税の扱いが争点になっておりますが、野党各党は物価高対策として減税や廃止を掲げる一方で、与党の自民・公明両党は社会保障を支える財源だと訴え、維持する方針です。
では、今回の参議院選挙における各党の主張とスタンスを具体的に整理してみましょう。
政党名 | 消費税関する主張 |
---|---|
自民党 公明党 | 消費税率の維持を基本方針としつつ、1人2万円(子どもや住民税非課税世帯の大人には2万円追加)の給付金の提案を掲げ、減税は公約せず 自民党内では減税を掲げない党の方針に不満が残っている状況 |
立憲民主党 | 食料品の消費税率を最長2年間ゼロにする「時限的減税」を公約 その後1人あたり2万円の給付等、給付付き税額控除への移行を主張 |
日本維新の会 | 食料品の消費税率を2年間ゼロにする「時限的減税」を提示 あわせて1人あたり6万円の社会保険料引き下げを主張 |
国民民主党 | 実質賃金が持続的にプラスになるまで消費税率を5%に引き下げることを公約(米国の関税政策を踏まえて減税を訴えるか最終的に決定予定) |
共産党 | 消費税の廃止を目指し、緊急に税率を一律5%に引き下げる案を公約 |
れいわ新選組 | 消費税を速やかに廃止し、つなぎで1人あたり10万円の給付案を主張 |
参政党 | 消費税を段階的に廃止する案を公約 |
社民党 | 食品の消費税率を即時にゼロにし、食品以外も一定条件の下で時限的にゼロにする案を提示 |
<各政党が公表している政策公約及び次の日本経済新聞の記事を基に作成
2025年7月3日付「与野党の参院選公約「分配」鮮明に 現金給付や減税、成長戦略は小粒」
2025年7月8日付「物価高、消費税減税すべきか 自公、財源確保へ据え置き 野党は全党が引き下げ訴え」>
この点について、注目すべきは与党である自民党内でも意見が割れている点です。
日本経済新聞社での参院選の立候補予定者に対するアンケート結果(293人が回答)によれば、消費税率について自民党は4割が「減税すべきだ」と回答しております。これは社会保障費の財源として減税を盛り込まなかった公約と食い違いが出てしまっている状況にあります。
実際に、政府・与党が6月にまとめた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)では「減税政策よりも賃上げ政策こそが成長戦略の要」と記され、石破茂首相も23日に「安定財源なしに減税するような無責任なことはできない」と語っております。ところがアンケートをみると、自民党は候補者と公約に違いが出てしまっており、公明党ともズレが生じているのです。
自民は消費税率を「維持すべきだ」が40%にとどまり、「食料品などの軽減税率8%は引き下げるべきだ」は32%、「引き下げ・廃止すべきだ」は11%で減税・廃止は合計43%に上っております。
公明は「軽減税率8%は引き下げるべきだ」が70%、「どちらともいえない」が30%で、「維持すべきだ」の回答はゼロだったのです。
ちなみに、共同通信社が6月14、15日に実施した世論調査によれば、物価高対策として消費税のあり方を尋ねたところ「食料品のみ減税をするべきだ」が33.6%、「食料品以外もすべて減税するべきだ」が23.2%、「廃止するべきだ」16.4%となりました。「減税するべきではない」は25.1%でした。
結果としては、消費税の減税・廃止を求める声が圧倒的に多い結果となりました。
一方、自民党が参院選公約に盛り込む意向の現金給付については「反対」54.9%で「賛成」41.2%を上回りました。
この理由としては「給付金は一時的だが、減税は長期的に家計を助ける」ことや「減税や廃止なら消費が活性化し、経済全体にもプラスになる」ことが挙げられます。
日本の税制は大変複雑で専門的な分野ですが、私たち一人ひとりが納税者であり、少しずつ負担が増えている以上、無関心ではいられません。
まずは、以下のような視点で候補者や政党の主張をチェックしてはいかがでしょう?
〇 税の「公平性」:所得や資産に応じた負担になっているか?
〇 税の「透明性」:どのように使われているか明確か?
〇 税の「持続可能性」:将来世代に過度な負担を残さないか?
〇 税の「経済への影響」:景気や雇用にどのような影響を与えるか?
これらは、選挙公報や政党のマニフェスト、討論会等を通じて、税制に関する具体的な提案を比較することが可能です。
これらの視点から、今回の減税の課題と実現可能性に鑑みると、「消費税減税」では以下のような課題が指摘されています。
① 財源の確保(食料品の税率を0%にすると年間約5兆円の税収減)
② レジ・会計システムの改修等、事業者側のコスト負担
③ 複数税率による事務処理の煩雑化
特に長期的に大きな課題となるのが、①の財源の確保です。先述の通り石破茂首相は「安定財源なしに減税するような無責任なことはできない」と語り、持続可能性の視点で財源の確保が求められますので、この点について次に考えてみます。
上記1.でも示しましたが現代社会において、消費税は安定的な財源としてその重要な役割を担ってきました。
一方で、所得にかかわらず一律に課されるこの税は、低所得層への負担が重く、社会的な逆進性が問題視されております。
近年の物価高や賃金停滞を踏まえ、消費税減税を求める声が高まっておりますが、税収の落ち込みに対する懸念や社会保障費とのバランスを踏まえて、その実現には確固たる財源の確保が不可欠です。
では、減税を実際に実現可能とすべき財源確保案について以下に取り上げたいと思います。
まずは何にも優先して「無駄な支出を削る」ことです。現在の財源確保のための歳入増加策に限らず、次のような項目をはじめとして歳出の見直しを行うことが重要です。
① 大型公共事業の厳格な再評価
② 防衛費(本当に必要か)や官僚機構の改革
③ 一部補助金の再検討(既得権益構造の見直し)
日本企業が保有する内部留保は500兆円を超えるとも言われています。そのうち一部は、設備投資や賃上げに活用されずに滞留しており、経済循環への寄与が不十分との指摘もあります。
これに対し、次のような制度設計が考えられます。
① 一定規模以上の内部留保に対する課税
② 利益剰余金への課税(課税逃れを防ぐ措置を含む)
③「租税特別措置」による税額控除制度の適用制限など
日本における資産格差の拡大は深刻で、上位1%が全資産の約20%を保有するといった推計もあります。消費税は、所得に関係なく一律に課されるため、むしろ累進課税を強化することで公平性が増します。
よって、次のような施策が考えられます。
① 所得税の最高税率引き上げ
② 相続税・贈与税の見直し(資産移転への課税強化)
③ 資産規模に応じた富裕税の導入
現在、日本では給与所得よりも金融所得(株式の配当や売却益等)の税率が低いため、「働くよりも投資した方が有利」という逆転現象が起きています。
そこで次の案が考えられます。
① 金融所得課税の一体化(総合課税への移行)
② キャピタルゲイン課税の強化(高所得者優遇の見直し等)
将来世代に負担を先送りしないためにも、次のような地球環境対策を兼ねた税制度を導入することが有効です。
① 炭素税の導入と段階的引き上げ
② 環境関連の課税(排出量や環境負荷に応じた負担)
GAFAをはじめとする多国籍IT企業は、国境を越えて利益を得ながらも、適切な課税を免れているケースがありますので、次のような対応も今後は求められます。
① デジタルサービス税の導入(EU諸国で導入実績あり)
② 国際協調による最低法人税率の確保(OECDのBEPSプロジェクトを参考)
次の(7)(8)は、「(1)歳出の見直し」の関連(一環)ではありますが、相当にドラスティックな案でありますので、別項目としました。
今回の消費税減税や社会保障費の財源確保のために、赤字国債の増発を容認する方向でもありますが、そもそも、日本の予算における歳出の4分の1を占めるのが、「国債費」と呼ばれる国債の償還や利払いにあてる費用であり、利払いだけでも10兆円近い金額で、今後の金利上昇によりその負担は増加する見込みです。
よって、政府の特権(貨幣鋳造権)により、お金を印刷して、それを国債の支払いにあてることが望まれます。
日本の借金は、2025年3月末の時点で1323兆円余りと過去最大を更新し、GDPの2倍以上にまで膨らんでおります。財政状況が一段と厳しくなる中、人口(特に労働人口)が減少し続けている日本において、今後成長により歳入を増やし、借金を返済していくのは至難の業といえるでしょう。
よって、上記の(1)~(7)などはじめさまざまな施策を実施したとしても、借金が増加する場合は、基本的に政府は日本銀行に借金しておりますので、形式上免除を申請してもよいと考えます(ある意味、現状も実質的にそのような状態と言えますが)。
上記それぞれの対策には賛否や課題もありますが、重要なのは“痛みの分配”を公平に設計することです。
単に財源を「作る」のではなく、どうすれば社会全体で持続可能な負担構造を実現できるか、というグランドデザインを描けるか否かが鍵になるものと考えます。
税金等は、私たちの生活のあらゆる場面に関わっています。だからこそ、参議院選挙で誰に投票するかは、単なる政治的選択ではなく、これからの未来に「どんな社会を望むか」という意思表示でもあります。
「税金が高い・安い」だけでなく、「候補者が私心なく国民のために政策を進める覚悟を持っているのか」「国民の誰がどれだけ負担するのか」「そのお金は国民が豊かに暮らすためにどう使われるのか」といった視点で、候補者や政党の主張を見極めてみましょう。
『私の一票で変わるわけがない』という声を頻繁に耳にしますが、「されど一票」です。
私たちの「一票」には、「未来の税制」を、「未来の日本」を変える力があります。
納税者として、有権者として、私たちの声を国政に届けることが、よりよい社会・国造りへの第一歩です!
このように、2025年7月の参議院選挙では「消費税減税」が単なる経済政策ではなく、国民一人ひとりの生活の視点に立った今後の政治のあり方を問う象徴的なテーマとなっています。
その意味でも、これからの「日本の命運を分ける」重要な選挙 だと言えるのです。
あなたの一票が、未来の税制を、否、『未来の日本の方向性』を決めるかもしれません!
今回のコラムが、これまでも選挙に関心を持っていた方への参考のみならず、あまり関心がなかった方にとっても7月の参議院選挙に関心を持って投票に行く「きっかけ」となれば幸いです。
また、令和7年度の税制改正のみならず、今後の税制の変更等により、今回注目の消費税はじめ、所得・法人・相続税などの確定申告や付随する会計記帳・社会保険料含む給与計算等で気になることやご不安をお持ちの方がいらっしゃれば、お気軽に私共のグループにお問い合わせくださいませ。
これからも、皆様の存続・繁栄のための一番身近な伴走者として、成長・発展の道をご一緒に歩むことができるよう、そして法人の皆様には『100年企業』を目指してご支援できれば幸いです。
合掌