理由附記の不備を理由に原処分取消

「税経新報」2007年12月号に掲載した記事です。

更正処分の理由附記(青色申告)の不備を理由に「原処分の全部を取消す」(異議決定書)   NO.1

更正処分の理由付記(青色申告)の不備を理由に
「原処分の全部を取消す」(異議決定書)
税理士 高橋 逸
この事案は法人税(青色申告)の更正処分の理由付記が不備であるとして異議申立てをした法人に対して、原処分庁がその異議申立ての理由が正当として原処分の全部を取消した事例である。この異議申立ては理由付記の不備以外に、寄付金の認定という更正処分に対する反論も当然していたが、「異議決定の理由」では理由付記の不備も認めて原処分を全部取消した。私は最近の更正処分の理由付記には、法的根拠や判断理由が明記されず結論しか記載されていないことや説明義務が果たされていないことが多いと思っている。従って、「異議決定書」を見ないと処分理由が判明しないことになり、このような処分は法律(税法)が規定する理由付記の要件を満たしていないので違法な処分であると考える。そこで今回の異議申立てにおいて明確にその不備を主張したところ、原処分庁がその不備を全面的に認めたのである。なお、更正処分は青色・白色申告の区別なく納税者に対する行政庁の不利益処分であるので、その処分理由は青色・白色申告とも必ず付記すべきである。

本事案は2006年10月に特別国税調査官(法人税調査担当)が2日間の税務調査を行い、そして反面調査等の後、2007年1月にその調査結果の説明(問題点)とともに修正申告を慫慂された事案である。そして、当方はその問題点について修正の必要がないことを説明したうえで修正申告の慫慂を拒否した。その後慫慂を拒否したためか、調査官は調査が終了しているにも関わらず新たな非違事項を指摘するため、関与税理士に無断で調査対象会社の一担当者に連絡をとり接触していたのである。そして3月初めに直接その法人に再調査を連絡してきたので、確定申告期間中の調査であり、かつ調査終了後における安易な税務調査の継続(継続調査)に対して質問検査権の濫用であるとして、下記のような抗議及び質問状をK税務署長に提出した。その結果、確定申告期間中の調査については謝罪をしたが、継続調査その他については何ら納得できる説明や謝罪はなかった。そこで再調査の前提として、4月まで延期すること及び調査内容については既に調査した項目は当然除外し、調査不足の特定項目のみに限定した。そして、その再調査において指摘された問題点についても当方は修正する必要がないことを説明して、再度修正申告の慫慂を拒否した。その結果、5月に下記のような更正処分を受けたのである。

「確定申告期の税務調査に対する抗議及び質問」(一部のみ掲載)
1.顧問税理士としての代理権を無視して、直接法人に連絡をしたことに強く抗議する。
2.確定申告期の一定期間は調査しない、という税理士会との約束を無視したことに抗議するとともに謝罪を求める。
3.本件調査は、任意調査としては十分な調査期間があり1月に調査は終了しているので、確定申告期に再調査を要求することは税務当局の納税者に対する威圧であり質問検査権の濫用である。そして、このように安易に「継続調査」として再調査できるとすればいつまでも調査は終了しないこととなり、納税者の法的安定性及び予測可能性を著しく害するとともに、税務行政に対する一層の疑念や不満を生じさせることになると考える。事実、納税者は威圧感と疑念を強く抱いているが、税務署長の見解を求める。(なお、国税庁の昭和51年4月1日付「税務運営方針」を参照すること)
4.当方が修正申告の慫慂に応じないため、新たな非違事項を指摘するために確定申告期に再調査を要求するのであれば、それは税務当局(国家権力)の権利の濫用であり、また調査能力を疑うものである。従って、納税者に過大な心理的負担を与えることになると考えるがどうか?(上記の「税務運営方針」を参照すること)    以上

当方はこの更正処分に対して予定どおり7月(不服申立て期限の2ヶ月後)に異議申立てをし、そしてその異議調査が9月に行われた。その異議調査においては、更正処分の争点である寄付金の認定について説明及び反論をしたうえで、理由附記の不備についても強く主張した。そして、10月に更正処分の全部を取消す異議決定書を受け取った。
なお更正処分の内容は下記の「更正通知書」のとおり、原処分庁はA氏に対する給与及び旅費交通費についてはB社が負担すべきものとして寄付金の認定をしたのであるが、異議申立ての結果は下記の「異議決定書」のとおり、寄付金の認定を全部取消したのである。ここでは寄付金の内容については説明を省略し、更正処分の手続きにおいて重要な要件である理由付記の必要性を確認する。

租税訴訟学会(会長 山田二郎)の「行政不服審査法改正に伴う国税不服審査制度等改革についての意見書(案)」(平成19年10月)では、「不服申立ての基本構造」において「理由附記の実現」として、次のように厳しい指摘をしている。
「現行法のもとでは、青色申告に係る課税処分などのように法が特に処分の理由附記を要求しているものを除き、税務に関する処分について理由附記は不要であると一般に解されている。これは、現行法が税務について行政手続法の適用除外を定めているためである(国税通則法第74条の2)(注)。そのため異議決定には理由附記を要することから、処分庁の処分の理由を知りたいという理由で異議申立てを行っている場合も多い。(途中省略)
しかしながら、処分の理由を知るために異議申立てをするというのは、本来のあり方とは全く異なるものである。行政の説明責任が当然のこととされ、行政処分一般については理由附記を要するという法制度が実現している中で、税務だけは旧態依然として処分の理由は不要であるなどというのは到底容認しえないことである。これを機会に、国税通則法第74条の2の改正も行うべきである。」
(注)国税通則法第74条の2「行政手続法の適用除外」
「行政手続法第3条第1項(適用除外)に定めるもののほか、国税に関する法律に基づき行われる処分その他公権力の行使に当たる行為については、行政手続法第2章(申請に対する処分)及び第3章(不利益処分)の規定は、適用しない。
2.行政手続法第3条第1項、他(適用除外)に定めるもののほか、国税に関する法律に基づく納税義務の適正な実現を図るために行われる行政指導については、行政手続法第35条第2項(行政指導に係る書面の交付)及び第36条(複数の者を対象とする行政指導)の規定は、適用しない。               (以下省略)

NO.2

また、「判例研究 日本税法体系3」(北野弘久編)では、次のように青色申告更正の理由附記に関する最高裁の判例理論をまとめている。
「第一に最高裁は、法が行政処分に理由を附記すべきとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立に便宜を与える趣旨であるから、その記載を欠く場合には処分自体の取消しを免れない、とした。この判断によって、青色申告更正の理由附記の規定が単なる訓示規定ではなく、強行規定であることが明らかにされた。
第二に最高裁は、附記理由の程度として処分の具体的根拠を明らかにすることを必要とするとし、納税者による処分理由の知・不知にかかわらず当該理由は更正通知書の記載自体において明らかにされていなければならない、とした。
第三に最高裁は、青色申告の場合に、同族会社の行為計算否認の規定を適用して更正処分をする場合であっても、理由附記の規定により理由が附記されるべきである、とした。
第四に最高裁は、更正処分(原処分)の理由附記の不備(瑕疵)は、後続処分の附記理由が不備でなかったとしてもこれにより遡って治癒されることはない、とした。」
なお、白色申告更正のように理由附記の規定がない場合についても、「憲法31条の要請としてそれなりの理由を附記すべきである」とし、従来、最高裁が白色申告更正の理由附記に対して消極的態度を示してきたことが、厳しく批判されなければならない、と指摘している。


「法人税等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書」
平成19年5月・・日  K 税務署長
「更正の理由」(アルファベット以外は実際の全文)
貴法人がXXX事業年度において支出した給与のうち、A氏に対する給与支給合計額YYY円及び同人に支出した旅費交通費ZZZ円は、B社が負担すべきものと認められますので、貴法人からB社に対する寄付金となります。
よって、貴法人の当該事業年度における寄付金の損金不算入額を再計算しますと、更にWWW円が損金不算入となります。
以下余白


「異 議 決 定 書」
平成19年10月・・日  K 税務署長
O主文
いずれも原処分の全部を取り消します。
O理由
別紙のとおり
別紙「異議決定の理由」
1.異議申立人(以下「申立人」といいます。)は、XXX事業年度に係る法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、「原処分」といいます。)の全部の取消しを求め、次のとおり主張されます。
(1)申立人がA氏に対して、「C契約書」に基づき支払った報酬及び旅費交通費(以下「本件金員」といいます。)について、更正の理由書には、本件金員がB社が負担すべき費用であることの判断理由が付記されていない。
(2)申立人は、本件金員は「C契約書」に基づき支払ったものであり、申立人の費用である。
2.異議審理庁が申立人の上記1の主張について調査したところ理由がありますので、原処分の全部を取り消します。
以下余白

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