税務調査を受ける心得

2006年11月「税経新報」に掲載したものです。

税務調査を受ける心得 NO.1
納税者権利憲章等がないため必要なこと

税務調査を受ける心得
<納税者権利憲章等がないため必要なこと>  税理士 高橋 逸
私は税務調査において、いつも次のようなことを心がけて主張しています。
1.「調査の事前通知があったとき、まず調査理由の開示を求める」
各税法(法人税法第153条(注1)、他)の「質問検査権」に「必要があるときは・・・質問し・・・検査することができる」と明記されているので、租税法律主義(憲法第30条(注2)及び同第84条(注3))に基づき、国税調査官はその必要性を納税者に説明する義務がある。従って、事前通知があったときは必ず調査理由の開示を求める。また、調査拒否等の場合には懲役または罰金という罰則(法人税法第162条(注4)、他)を科してまでの重要な調査であるので、客観的な具体的理由が必要である。つまり、「所得の確認等」のような抽象的な理由では調査の必要性はないと説明して具体的な調査理由の開示を求める。
なお判例では、「具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合」に質問検査が許される、としている(最高裁 昭和48年7月10日第3小法廷決定)。
但し、納税者権利憲章等の具体的な規定がないため、現実はほとんどが理由不開示又は抽象的な理由だけである。なお私の経験では、後の調査で以前と同じ調査官が担当した場合には少し理由が開示されることがある。つまり、具体的な調査理由は多少に関わらずあると思われるが開示しないだけである。
2.「申告納税制度により租税債務は確定している」
国税通則法第16条(注5)では、所得税・法人税等については戦前のような賦課課税方式ではなく、自主的な申告納税方式により租税債務は確定すると規定している。 つまり、申告及び租税債務は税務調査とは無関係に納税者の申告納税により確定しているのである。
従って、税務調査の意義は第2次的・補完的なものである。また、調査対象は厳選されて毎年の調査件数は数%以下(対企業数)であり、単純平均すると約20年~30年毎になる。従って、3年とか5年経過しているという調査理由を調査官は安易に説明するが、それは全く無関係で理由にはならない。また、ノルマ的件数の消化を目的とする調査は納税者に全く不要な心理的・時間的負担を掛けることであり、同時に公務員として税金の無駄遣いでもある。
3.「任意調査であるが、罰則規定を伴う間接強制調査である」
税務調査を拒否等すると懲役または罰金という重い罰則を科してまでの調査であり、調査理由がある限り受任義務があると考える。しかし、あくまで任意調査であるので受忍義務以外、つまり調査日程や調査内容については、納税者側の時間的・経済的・心理的負担を最優先に考慮して要求する。
なお、国税庁の「税務運営方針」にも「納税者の理解と協力を得て行うものである」と明記されている。
4.「調査日等は納税者側の都合で決定する」
調査官の日程希望は一応聞き、納税者側で調整して後日連絡するが、通常1日しか予定できない。調査官は安易に連続して2日から3日間を要求するが、調査理由が不開示や抽象的であるため調査時間が何時間程度必要であるか判断できないので2日以上予定することはできない。なお、現況調査は必要最小限にとどめるべきことが国税庁の「税務運営方針」に明記されている。
もし、2日以上必要とする調査理由の開示があれば当然検討する。しかし理由不開示が通常であるので私の場合、調査初日の内容や進行に応じて必要があればその時に、翌日ではなく納税者側の都合を優先して2日目を予定している。
5.「課税処分(更正処分等)のための調査である」
税務調査は一般的に、課税処分のための調査・滞納処分のための調査・犯則事件のための調査と3種の類型に区分され、質問検査権に基づく調査は課税処分のための調査に分類される。つまり、更正・決定処分などの課税処分を目的とした調査であるので、申告内容の確認や指導することが目的ではない。また、一般的に修正申告を慫慂することが多いが、修正申告を求めることは本来の目的ではない。つまり、更正・決定処分等をするために調査をするのであって、課税処分をするために直接必要な帳簿書類等だけが調査対象であり、それ以外の書類等は調査対象外である。例えば、得意先・外注先の取引金額・住所などを記録することや会社概要等の各種資料を持ち帰ることは調査権限外であり、調査官の裁量権の濫用である。
6.「国税庁の「「税務運営方針」」を説明する」
国税庁は昭和51年4月1日付で「昭和51年度 税務運営方針」を公表して税務調査のあり方などについて述べており、現在も有効な取扱いとなっている。
その中の「調査方法等の改善」では、「税務調査は、その公益的必要性と納税者の私的利益の保護との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであること・・・事前通知の励行に努め、また、現況調査は必要最小限にとどめ、反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする。なお、納税者との接触に当たっては、納税者に当局の考え方を的確に伝達し、無用の心理的負担を掛けないようにするため、・・・。
また、納税者に対する来署依頼は、納税者に経済的、心理的な負担を掛けることになるので、みだりに来署を依頼しないよう留意する。」と訓示している。
このように納税者の立場を考慮した立派な国税庁長官の訓示であるが実際には守られていないことが多いので、現場で調査官に説明しこの方針を遵守することを要求する。
7.「コピーや資料等の持ち帰りを断り、反面調査を拒否又はけん制する」
調査官は安易にコピーを要求するが、コピーの内容は原本そのものであり原本を持ち帰ることと同様と考える。任意調査は納税者の理解と協力を得て行い、現況調査は必要最低限にとどめるべきであるから、課税処分に必要な内容だけを記録して持ち帰ることが原則である。コピーには必要以外の部分も含めて表示されていることが多く調査対象外の資料も含まれることになる。また、会社概要等の資料は課税処分に必要な書類ではない。従って、強制調査ではないのでコピーや資料等原本の持ち帰りは任意調査の権限外であり、調査官の裁量権の濫用と考え拒否する。
なお、私の過去の調査において、ある上席調査官は「コピーを要求することは自分の調査能力が不足していることの表れである」と漏らしたことがあり、調査官の裁量権の濫用だけではなく、能力不足や怠惰も原因のようである。
次に、反面調査は対外的に納税者の信用問題になる可能性が高いにも関わらず、安易に行われることが多い。反面調査は現況調査だけではどうしても判明できない場合にのみできるのであって、かつ納税者の事前承諾及び反面調査の合理的必要性が前提である。なぜなら、反面調査は本来の被調査者に対するよりも明らかに必要性が少なく、また反面調査権の濫用を防止するためにもその理由開示が厳格に求められる。
また、国税庁の「税務運営方針」にも「客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行う」を明記されている。

税務調査を受ける心得 NO.2

8.「原則として修正申告すべきではなく、更正処分を求める」
調査における争点について調査官と判断が異なる場合、調査官は安易に修正申告を慫慂することが多い。これに対して、納税者は申告内容に根拠があるときはもちろん、調査官の説明が納得できないときも修正申告に応ずるべきではなく、納税者の根拠を説明したうえで更正・決定処分等を求めるべきである。納税者が修正申告をした場合、異議申し立て等の納税者の権利を守るべき法的権利を放棄したことになり、適正な法的判断を求めることができなくなる。
私の場合、適否の判断が困難ないわゆるグレーな場合も修正申告はせず、法的判断を求めることにしている。また、異議申し立てを予定しない場合でも修正申告はせず、更正等を求めることがある。
なお、調査官は調査が不十分な場合や更正・決定等をするほどの確信がない場合も修正申告を慫慂することがある。ある国税局では、修正申告の慫慂を前提とした不十分な調査はしないように、との国税局長の訓示があったようだ。
9.「租税回避行為は法律で個別規定がない限り否認できない」
納税者が租税負担を意図的に軽減する行為は、節税行為・脱税行為・租税回避行為と分類でき、税務調査においては租税回避行為について争点となることが多い。租税回避行為の判断については、その行為について個別の否認規定(所得税法第59条(注6)、他)が存在しなければ否認できないのである。そして、個別の否認規定が存在しない場合は学説が分かれており、判例上も最高裁の判断が現在示されていないため下級審においてはその判断が分かれている。
学説は、租税平等主義(実質主義の原則)の要請を重視して個別の規定がなくても否認できるとする学説と、租税法律主義の要請を重視して容認(否認できない)する学説がある。租税回避行為は私法上適法有効な行為であるから、租税法律主義の法的安定性・法的予測可能性を尊重すべきであり、否認するには個別の規定が必要と考える。
なお、岩瀬事件(注7)における控訴審判決(東京高裁 平成11年6月21日)では「租税法律主義の下においては、法律の根拠なしに、当事者の選択した法形式を通常用いられる法形式に引き直し、それに対応する課税要件が充足されたものとして取り扱う権限が課税庁に認められているものではない。」と明確に判示している。
10.「納税者の権利を守るための不服申立て制度を説明する」
税務調査における納税者の権利を守る行政手続として唯一の手段である不服申立て制度について、国税当局から納税者に対する説明義務が現在制度化されていない。従って、納税者には自らの権利を知る機会が全く保証されていない。調査において調査官は修正申告を慫慂する場合には、当然説明すべきであるにもかかわらず何ら説明がなされないため、納税者は税務上の争う手段がわからない状況で修正申告に応じているのが現実である。この現実は納税者権利憲章等、行政手続上の法律が未整備のためであり、明らかに法の不備である。
なお、不服申立て制度も次のように重大な欠陥があり、納税者の主張がほとんど認められない実態があるので早急に是正されるべきである。
まず異議申し立て制度では、原処分庁である税務署等において、同じ課税部門に所属する異なる調査官等がその異議申し立てについて再調査して判断している。また審査請求制度では、国税不服審判所の構成員である審判官の大部分が同じ国税局内の人事異動により税務署等から転勤して審判しているのである。
従って、どちらの制度においても国税当局の原処分を同じ国税局の職員が判断しており、とうてい適正かつ公平な判断が期待できるものではない。
私の場合審判所において、いつも初めに「国税不服審判所は違法な課税から納税者の権利を守るべき重要なところである。」と、審判官と納税者に原則であるが希望的な説明をしている。
この実態から、現在の不服申立て制度については根本的に再検討すべきである。
11.「税理士個人の能力により納税者の権利は左右され不合理である」
現在の税務調査は納税者の権利を守るべき納税者権利憲章等が未整備であるため、調査の現場においては税理士個人の能力により調査内容や調査結果が左右されているのが実態である。つまり、調査日程の決定から修正申告等か不服申立てかの結論まで、税理士個人の能力や判断により納税者の権利は左右されている。
しかし、税務調査における納税者の権利は租税法律主義により行政手続等の法律に基づいて、全ての納税者が適正かつ公平に取り扱われるべきである。
行政手続に関する法律としては「行政手続法」があり、その第1条(目的等)は「・・・行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。」と規定しており、当然納税者の権利についても含まれるべきであるが、第3条(適用除外)で、国税又は地方税に関する法律に基づく処分や行政指導、不服申立ての審査手続等、税法関係の全てが合理的理由なく適用除外とされている。
従って、行政手続法の改正又は納税者権利憲章等の法律制定を早急にすべきである。
なお、「平成17年改訂 国税徴収法精解」(大蔵財務協会)の「序」では、「租税債権については、優先的効力の範囲にも、その用いうる強制力の程度にも、徴税当局の認定と裁量に委かされている幅が相当に広い。・・・近代法治国家の公権力の作用としても、異例に属する。・・・これらの制度の運用に当っては慎重の上にも慎重を期することが、当然の前提として諒解されているのである。・・・よく切れる刀を持つ者が必要以上に切らないよう自制することは、すこぶる困難である。・・・本書がこれを戒めるためにも役に立つことを希望してやまない。」(昭和35年1月 我妻 栄)と的確な提言がされている。
税務調査等の税務行政において、この提言をしっかり受け止めて実施してほしい。

(注1)法人税法第153条「当該職員の質問検査権」
「国税庁の当該職員又は法人の納税地の所轄税務署若しくは所轄国税局の当該職員は法人税に関する調査について必要があるときは、法人に質問し、又はその帳簿 書類その他の物件を検査することができる。」
(注2)憲法第30条
「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。」
(注3)憲法第84条
「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」
(注4)法人税法第162条
「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」
一.省略
二.「第153条・・・の規定による当該職員の質問に対して答弁せず若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査を拒み、妨げ若しくは忌避した者」
三.「前号の検査に関し偽りの記載又は記録をした帳簿書類を提示した者」

税務調査を受ける心得 NO.3

(注5)国税通則法第16条「国税についての納付すべき税額の確定の方式」
1.「国税についての納付すべき税額の確定の手続については、次の各号に掲げるいずれかの方式によるものとし、これらの方式の内容は、当該各号に掲げるところによる。」
一.「申告納税方式 納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とし、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長又は税関長の調査したところと異なる場合に限り、税務署長又は税関長の処分により確定する方式をいう。」
二.「賦課課税方式 納付すべき税額がもっぱら税務署長又は税関長の処分により確定する方式をいう。」
2.「国税についての納付すべき税額の確定が前項各号に掲げる方式のうちいずれ の方式によりされるかは、次に定めるところによる。」
一.「納税義務が成立する場合において、納税者が、国税に関する法律の規定により、納付すべき税額を申告すべきものとされている国税 申告納税方式」
二.「前号に掲げる国税以外の国税 賦課課税方式」
(注6)所得税法第59条「贈与等の場合の譲渡所得等の特例」
「次に掲げる事由により居住者の有する山林又は譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす。」
一.「贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二.著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
2.(省略)
(注7)岩瀬事件
相互の売買契約について実質主義を根拠に補足金付交換契約に引き直して(認定)、
課税した事件(最高裁は課税庁の上告を不受理決定)
東京高裁は「譲渡所得に対する税負担の軽減を図るという考慮から、より迂遠な
面のある方式である本件譲渡資産及び本件取得資産の格別の売買契約とその各
売買代金の相殺という法形式を採用することが許されないとすべき根拠はないも
のといわざるを得ない。」と判示している。

高橋逸税理士事務所

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TKC全国会
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近畿税理士会所属

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