金融類似商品の源泉分離課税は不公平税制

2010年3月「専業税理士界」の「主張」に掲載したものです。

金融類似商品の源泉分離課税(措置法)は不公平税制
憲法第14条・第25条等違反の疑い
税理士 高橋 逸
はじめに
今年の確定申告期に、一時払個人年金保険(5年超の保険期間)で5年以内の解約による保険差益に係る税金相談があり、調べるとその差益はいわゆる金融類似商品の収益等に該当し、源泉徴収(国税15%・地方税5%)だけで課税関係が完結する源泉分離課税の対象であった。つまり、強制的に課税が完結する源泉分離課税であるので、所得が課税最低限以下で納税義務のない者でも還付申告ができないのである。従って、相談者に対して確定申告は不可能で還付を受けることができないと回答したが、その相談者は他の収入が少額の年金だけ(課税最低限以下)であり、当然還付申告ができると思っていた。なぜならその保険差益は50万円未満であり、もし5年超の解約であれば本来の所得区分である一時所得に該当し特別控除によりその所得はゼロとなり、源泉徴収税額は還付対象になるからである。そこで、私も疑問を持ったので根拠等を確認したところ、本来は総合課税すべきところ税制改正(改悪?)によりこの差益を源泉分離課税で完結するように変更(租税特別措置法において)したものであった。従って、以下の問題点から、私はこの源泉分離課税制度を金持ち優遇の不公平税制であると考える。なお、いわゆる金融類似商品の収益等とは、定期積金の給付補てん金、抵当証券の利息、金投資(貯蓄)口座の差益、外貨建預金の換算に伴う為替差益、一時払養老(損害)保険等の差益、懸賞金付預貯金等の懸賞金等をいい、昭和63年4月1日から源泉分離課税が適用されている。

沿革と問題点
この源泉分離課税制度は「DHCコンメンタール所得税法」では、「昭和62年の改正で、利子所得につき分離課税制度が導入されるなど大幅な改正が行われたことに伴い、いわゆる金融類似商品といわれる定期積金の給付補てん金等についてもこれと同様の課税関係で律することが適当であることから設けられたもので、昭和63年4月1日から適用することとされた。」と、措置法第41条の10の「沿革」に記載されている。そして「租税法・第12版」(金子宏著)では、利子所得の一律源泉分離課税について「このような制度がとられているのは、利子所得の発生の大量性、ならびに元本たる金融商品の多様性および浮動性にかんがみると、簡素で中立的な制度が好ましい、という理由によるものである。」そして「なお、いわゆる金融類似商品の収益等は、所得分類上は利子所得ではないが、金融資産の選択に対する税制の中立性を確保するため、これらの収益に対しても、利子所得の場合と同一の税率で一律源泉分離課税を行うこと」と解説されている。つまり、いわゆる金融類似商品の収益等は本来一時所得や雑所得又は譲渡所得であり、他の所得と合算して確定申告する総合課税が原則であるが、措置法により(本来は一時的な措置として)利子所得同様に一律源泉分離課税の適用により課税関係を完結させている。重要な問題は一律源泉分離課税の適用を受けることで、本来の所得分類とは異なる課税関係となり不公平な結果が生じることである。例えば、本来譲渡所得等である金貯蓄口座の利益は源泉分離課税で課税関係が完結するが、類似取引である金証券の売買益は本来の譲渡所得として確定申告の対象である。この違いは金貯蓄口座の収益形態が利子所得に類似しているからと説明されているが大変理解しがたい。その結果、高額所得者や資産家が金貯蓄口座を利用して多額の利益が発生しても20%の課税(本来50%課税の者でも)で課税関係が完結し、一方で本来は還付申告が出来る少額所得者(本来20%課税未満の者)が20%の課税を受けることは明らかに不公平である。また、私の相談者のように予想外に資金が必要となり保険を解約したところ、たまたま5年以内の解約であったために金融類似商品の収益等と見なされて還付申告ができない、という不公平な結果になることもこの制度が原因である。このような制度は憲法上の要請である「課税の応能負担原則」に反しているので、本来の総合課税に改正すべきであり、かつ憲法上(第14条「法の下の平等」、第25条「生存権」等)の問題もある。事実、平成2年に大阪地裁から最高裁(原告敗訴であるが)まで争われた事件(利子所得の一律源泉分離課税に関する憲法第14条・第25条等違反)がある。

源泉徴収制度
一律源泉分離課税ではない源泉徴収制度について、「税法学原論・第6版」(北野弘久著)では「源泉徴収制度はあくまで申告納税制度における事前的・概算的納付の制度であり」、「受給者側からいえば特定の所得の受給者のみが源泉徴収の対象になるという点で、憲法第14条から問題となりうる」。特に給与所得者等の場合には「本来の納税者である受給者の法的地位にはほとんど配慮していない。もっぱら課税庁と源泉徴収義務者との間の法律関係として構成している点で、このような法的構造自体が憲法第14条、第31条(適正手続)等の要請に抵触する。」と明確に指摘されている。この指摘から、措置法に規定する一律源泉分離課税により確定申告が不可能となる金融類似商品の収益等については、本来の納税義務者である受給者の法的地位を課税関係から完全に切り捨てることになり、憲法上の問題がより重大である。

税制改正
現在、税制調査会において来年度以降に向けた税制改正を検討しているが、まず憲法上も問題がある措置法に規定する不公平税制を是正すべきである。そして、特に所得税については「税による所得再分配機能」を十分発揮させるため、金融類似商品の収益等に対して超過累進税率による総合課税(本来の課税)に変更するように改正を望む。
以上

高橋逸税理士事務所

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