就業規則の見直し

近年の労働関係法令の激変ともいえる改正に伴い、それにあわせて就業規則の改正も余儀なくされています。
自社の就業規則は大丈夫かチェックされることをお勧めします。
労働関係法令の改正に伴い就業規則に影響を与えるものを、法別に列記したいと思います。

労働契約法

有期労働契約の終了場面で紛争が起きやすいことから、終了場面に関するルールが明らかにされました。
<概要>
有期労働契約を長期にわたり反復更新した場合、無期労働契約に転換させることなどを法定化することにより、労働者が安心して働き続けることが可能な社会の実現を図るとして、下記のような改正が行われています。これに伴い転換を阻止しようとする場合にはその方策を、結果として転換されてしまった場合にはその労働者をどう処遇するかなど、事前に就業規則に記載しておく必要がでてきます。
1.有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、労働者の申込みにより、無期労働契約に転換される仕組みが導入されました。
2.雇止め法理(判例法理)を制定法化されました。
有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、または有期労働契約の期間満了後の継続雇用につき、合理的期待が認められる場合には、雇止めが客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、有期労働契約が更新されたとみなされます。
雇止めをする場合、判例によれば、期間を定めているものの、契約書がない場合や契約更新手続きを怠っている場合、また、契約が更新されると合理的な期待を抱かせた場合などは、その雇止めは解雇権の濫用として無効となる可能性が高いので注意が必要です。
3.期間の定めがあることによる不合理な労働条件が禁止されました。
有期労働契約の労働条件が、期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮して、不合理と認められるものであってはならない(必ずしも合理的でなければならないといっている訳ではありません)とされました。
この法改正の影響は、ほとんどの非正規雇用が有期労働であることから、多大の影響があると思われ、適切・周到な対応が必要となります。

労働者派遣法

派遣法成立以来の規制緩和路線から、派遣労働者保護へ大きく舵を切った大改正です。
特に就業規則への影響としては、労働者派遣契約の中途解除の際の取組、雇用契約の無期転換などです。
以下改正の概要を見て行きましょう。
<概要>
1.事業規制の強化
イ 日雇派遣が原則禁止されました。
ロ グループ企業内派遣の8割規制、離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることが禁止されました。
2.派遣労働者の無期雇用化や待遇の改善
イ 派遣元事業主に、一定の有期雇用の派遣労働者につき、無期雇用への転換推進措置を図るよう努力義務を課しました。なお、派遣法は努力義務ですが、上述の労働契約法は義務規定であり、派遣労働者を除外するとの規定はありませんので、結局労契法の要件を充足すると派遣労働者が希望すると無期契約に転換されます。従って、転換を阻止しようとする場合または転換された場合のその身分をどのように処遇するかといったことを就業規則に予め規定しておくことが必要になるかと思われます。
ロ 派遣労働者の賃金等の決定にあたり、同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮するよう求められました。
ハ 派遣料金と派遣労働者の賃金の差額の派遣料金に占める割合(いわゆるマージン率)などの情報公開が義務づけられました。
ニ 雇入れの際、派遣労働者に対して、一人当たりの派遣料金の額を明示するよう求められました。
(その労働者本人に関する派遣料金か事業所の平均的な派遣料金のいずれか)
ホ 労働者派遣契約の中途解除の際の、派遣元および派遣先における派遣労働者の新たな就業機会の確保、休業手当等の支払に要する費用負担等の措置を設けるよう義務化されました。
これにより就業規則に就業機会の確保の内容や休業手当の支給及びその額を記載しておく必要が出てくると思われます。
3.違法派遣に対する迅速・的確な対処が求められました。
これは、違法派遣の場合、派遣先が違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れているときは、派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなす規定が平成27年10月1日から施行されます。
このような「みなし雇用制度」が施行されますと、派遣先・派遣元・派遣労働者の3者間で法的な紛争が起きることが充分予想されます。派遣を受けている方も漫然と受け入れるのではなく、それなりの用心が必要となってきます。

高年齢者雇用安定法

老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の引き上げに伴い、無年金・無収入となる者が生じることのないよう、原則希望者全員の再雇用を確保するよう改正されました。これに伴い、漫然と更新していると、無期雇用に転換されたり、退職金を要求されたり、果ては実質上定年がなくなってしまったりと色々なトラブルが予想されます。そこらをしっかりと就業規則に規定しておく必要が出てきます。
<概要>
1.継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止されました。
この4月以降新たに対象者を限定する仕組みを導入することはできません。また、従来対象者を限定する仕組みを導入済みの会社は生年別に対象者を限定する仕組みに就業規則を変更しなければなりません。
2.継続雇用制度の対象者を雇用する企業範囲が拡大されました。
継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大する仕組みが設けられました。
3.義務違反の企業に対する公表制度の規定が導入されました。
高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告に従わない企業名を公表する規定が設けられました。

パートタイム労働法

正社員との均衡のとれた待遇等を図ることを目的に改正されています。これに伴いパート就業規則の見直しが未着手の企業では改正が必要になると思われます。
1.労働条件の文書交付等
雇入れの際、特にトラブルになりやすい3つの事項(昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無)について文書の交付が義務化されました。
2.パートタイム労働者に対する差別的取扱いの禁止
職務の内容や転勤の見込み等が正社員と同一の期間の定めのないパートタイム労働者については、その待遇について、差別的取扱いが禁止されました。
3.パートタイム労働者の賃金について、正社員との均衡を考慮しつつ決定するよう努力義務が課されました。
4.教育訓練につき、正社員と職務が同一のパートタイム労働者については、正社員と同様の教育訓練を実施するよう義務付けられました。
5.福利厚生に係る均衡の確保を配慮するよう義務付けられました。
6.正社員の転換推進
正社員を募集する場合、その募集内容を既に雇っているパートタイム労働者に周知するなどして正社員への転換を推進するよう義務付けられました。
7.パートタイム労働者から求められた場合、待遇の決定にあたって考慮した事項について説明することを義務付けられました。
このうち正社員への転換推進については、複数ある選択肢からどれを取るのか予め就業規則に明記しておいた方がいざというとき困らなくて良いでしょう。また、労働契約法18条との関係から、労働契約の更新の判断基準の明確化をしておく方が賢明でしょう。ただし、今回の法改正以前からずっと更新をし続け、更新の合理的期待権の発生している人に対して、ここでいきなり既存のパートタイマー就業規則に更新の上限を設けるのは、それぞれの使用者側の個別事情に応じてケースバイケースで慎重に対応する必要があると思われます。
また、ここでも無期雇用契約に転換された場合の定年の扱いなど、事前に就業規則に定めておいた方が安全と思われます。

労働安全衛生法

最近における労働災害の動向に即応し、受動喫煙の防止のために必要な措置を強化すべく改正が行われました。また精神的健康の保持増進を図るためメンタルヘルス対策の充実・強化を目的とする改正が予定されています。
受動喫煙については使用者の安全配慮義務もありますので、就業規則に職場での禁煙または分煙など規定しておくと良いでしょう。

育児介護休業法

わが国における急速な少子化の進行等を踏まえ中小企業に猶予されていた施策が義務化されています。この内容については就業規則等に規定しておく必要があります。
1.3歳未満の子どもを持つ従業員への短時間勤務制度の導入・残業免除の義務化
2.介護休暇制度の新設
このほか、専業主婦(夫)を配偶者に持つ従業員への育児休業取得促進、勧告に従わない企業名の公表などが改正されています。