今どきの労災

平成22年2月16日過労がたたり寝たきりになった元レストラン店長に、鹿児島地裁は1億9,500万円の損害賠償を命じました。
過労死弁護団全国連絡会議によると、全国の過労を巡る訴訟の中で最高額に匹敵する賠償額だそうです。
また、大手居酒屋チェーンに入社後僅か2ヶ月後に自殺した新入社員について、審査請求の段階で労災認定がなされました。
我が社に限って労災なんて、と安易に考えない方が良いと思われます。
昔なら労災認定まあしょうがない、で終わったかもしれませんが、今では労災認定だけでなく、企業の安全配慮義務違反で想定もしていない金額の損害賠償を求められることになるかも知れません。

今は未払い残業より過重労働

監督署のスタンスは、ちょっと前まで未払い残業に注力されていたようでしたが、今やそのスタンスは明らかに過重労働問題に移ってきているように思われます。
平成23年12月に精神障害の労災認定に関する新たな基準が公表されました。
精神障害、特にその代表例が「うつ病」ですが、残業等の過重労働が絡むと新しい基準では、案外簡単に労災認定がなされる可能性が出てきました。
この基準に照らし合わせると100時間超の残業を放置しておくと、労災認定を受ける確率が格段に上がってきます。
今やメンタルヘルス不全の問題は、労務管理における最大の課題といって間違いないと思います。
早期発見による未然防止と就業規則などによるリスク対策が求まられます。

新しい労災認定基準

詳しくは厚生労働省のホームページをご覧頂くとして、要約すると以下のようになります。
精神障害における労災認定については、以下の3つのいずれの要件を満たすことが求められます。
①対象疾病を発病していること。
②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による”強”い心理的負荷が認められること。
③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。

①の対象疾病は、業務に関連して発病する可能性のある精神障害の代表的なものとして、うつ病や急性ストレス反応などがあります。
②業務に”強”い心理的負荷が認められるかはどうかについては「特別な出来事」に該当する出来事がある場合は”強”として、この”強”が一つでもあれば労災認定の可能性が非常に高くなり、”中”が複数あると”強”と認定される可能性があります。
では、”強”となる、「特別な出来事」とは何を指すかと言いますと、
○極度の長時間労働・・・発病直前の1か月におおむね160時間をこえるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った。
○恒常的な長時間労働が認められる場合・・・具体的な出来事の心理的負荷の強度が労働時間を加味せずに”中”程度と評価される場合であって、出来事の後に恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)が認められる場合には、総合評価は”強”とする。
③業務以外の心理的負荷による発病かどうかについては、「業務以外の心理的負荷評価表」を用いるとされています。”Ⅲ”に該当する事例(Ⅲの事例は厚生労働省のホームページでご確認下さい)が複数ある場合はそれが発病の原因であるかどうか、慎重に判断するとされています。
なお、”Ⅲ”の例を2,3挙げると、「離婚又は夫婦が別居した」、「配偶者や子供、親や兄弟が死亡した」などです。

上記②で見たように、長時間労働を放置しておくのは、未払残業問題ばかりでなく、今では労災認定、企業の安全配慮義務違反など経営の継続をも危ぶまれる事態に発展する可能性もあります。

早期発見による未然防止

精神科医の鈴木安名先生の提唱されている「ケチな飲み屋サイン」は、是非覚えておきましょう。
け 欠勤が増える(特に休み明けに曖昧な理由で)
ち 遅刻・早退が増える
な 泣き言をいう
の 能率が低下し、長時間労働となる
み ミスや事故が増える(ポカミス、ケアレスミス)
や 辞めたいと言い出す
こんなサインが出たらまずは、話を聴いてあげましょう。
精神障害は不眠を伴って起きることが多いので、優しく、夜は眠れているか聴いてあげましょう。
不眠症状が出ている場合には、医師の診断を勧めましょう。
なにもしなければ、それこそ安全配慮義務違反の典型例になってしまいます。

就業規則によるリスク対策

就業規則については、そもそもメンタルヘルスを想定していないケースも多く、いざ問題が発生した際に問題が起こることもあるようです。
うつ病など、メンタルヘルス不全により就業できない場合には、通常就業規則に基づき、休職を命ずることとなりますが、休職、復職規定については、いくつかのポイントがあります。
①休職を命ずる事由において、「完全な労務の提供ができず」など、労務の不完全履行の要件を入れる。
②休職期間は自社の体力にあった適切な長さにする。
③休職中の賃金の扱いを明確にしておく。
④同一又は類似の事由での休職取得回数に制限を設ける。
⑤治癒の定義を明確にしておく
⑥復職に際しては使用者が指定する医療機関で受診させるなど、各種判断において会社がイニシアテイブを握る。
などです。