是正勧告

ある日突然、監督署に来られた経験のある方もおられると思います。
ほとんど予告なく、いきなり事業場に現れるので、大抵はビックリして、うろたえてしまうものです。
そこでここでは、労働基準監督署への対応について、考えてみようと思います。

労働基準監督官の臨検監督

労働基準監督官が会社を監督するのを臨検監督といっています。
これは事業場などに強制的に立入調査し、労働基準法違反等を是正指導するためのものです。
臨検監督の目的は、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法などの法律にその事業場が違反していないか否かを調査確認し、法違反があった場合には是正させ、適法な状態にすることです。
臨検監督には何種類かありますが、臨検監督を行う際は、原則として事前に連絡せず、抜き打ちで行われます。
これは事前に連絡をすれば、帳簿や書類を改ざんしたり、事実を隠されたりする恐れがあるからです。
最近では、時間外労働の監督の場合、夜間、社員が時間外労働を行っている現場を訪れ、事実を把握するケースも増えていると言われています。

臨検監督に選ばれやすい会社

では、実際にどのような会社が、臨検監督に選ばれやすいのでしょうか。
次のような会社がリストアップされやすいと言われています。
①頻繁に労働災害が起こる業種・企業(建設業・運輸交通業等)
②就業規則、時間外・休日労働協定、健康診断結果報告書等が未提出の企業
③サービス残業がある業種の企業(ソフトウエア業、運送業、飲食業等)
④その年度の重点対策事項に該当する業種・企業(派遣元・派遣先、医療関係、自動車運転手、外国人労働者、技能実習生等)
⑤過去に違反や労働者等からの法違反申告があって労基署からマークされている企業
などです。

臨検監督で何をみるか

では、臨検監督で監督官は何をみるのでしょうか。列記すると次のようなものです。
<事業場と労働者に関すること>
○事業の名称、所在地、事業の内容、経営の方法等
○事業主の氏名
○労働者名簿
○派遣労働者の有無、構内の請負企業の有無、外国人労働者・技能実習生の有無
<労働条件の明示に関すること>
○労働条件通知書を作成しているか
○就業規則を作成しているか
○就業規則を周知しているか
<労働時間に関すること>
○タイムカード等労働時間の記録があるか
○変形労働時間制をとる場合の労使協定の有無
○時間外労働協定(36協定)の締結、届出の有無
○36協定オーバーの有無
○残業時間の把握状態
○管理監督者の範囲は適正か否か
<賃金に関すること>
○賃金台帳は整備されているか
○賃金控除協定書は整備されているか
○残業代の不払いはないか、残業代単価は正しいか
○最低賃金額以上を支払っているか
<年次有給休暇に関すること>
○年次有給休暇の取得記録や取得手続きに問題はないか
<安全衛生に関すること>
○安全衛生推進者の選任はされているか(労働者数10人以上50人未満)
○安全管理者の選任はされているか(労働者数50人以上、以下同じ)
○衛生管理者は選任されているか
○産業医は選任されているか
○安全衛生委員会は設置されているか
○健康診断の実施記録はあるか(労働者の人数にかかわらず、以下同じ)
○健康診断の事後措置は行われているか
○過重労働はないか
この他建設業などでは、クレーンの運転等に関することがチェックされます。
臨検監督で問題が発見された場合、監督官が監督指導時に交付する書類が、指導票、是正勧告書、使用停止等命令書です。

指導票

指導票は、ある事柄について、法違反ではないが改善を図らせることが望ましい場合に交付されます。
また、指導票は法令違反と断定しがたいが改善すべきこと、あるいは改善の方法について書かれることもあります。
なお、法違反には該当しないが、次のような場合は、指導票により必ず指導することとされています。
①個別的かつ具体的な労働条件の明示が充分でない場合
②労働時間を把握していない場合
③労働時間の把握について自己申告制を採用しているが、勤務の実態から見て適正な申告がなされていない疑いがある場合
④指針の内容に適合しない36協定により、又は特別条項付き協定に基づき、恒常的に目安時間を越えて時間外労働を行っている場合
⑤時間外労働に関する記録が実態と異なり、サービス残業の疑いがある場合(違反として措置できる場合及び②の場合を除く)
⑥みなし労働時間適用者の労働時間の把握が行われていない場合
⑦管理職の労働時間の把握が行われていない場合
⑧管理職として扱っているが、労基法上の管理監督者の実態に疑義がある場合
⑨労働者の相当数が法定休日労働を恒常的に月1回以上行っている場合
⑩振替休日を採用しているが、振り替えた休日の相当数が取得されていない場合
⑪年俸制の適用者であって、管理監督者に該当しない場合
⑫上記④の場合又は36協定の限度を超える長時間労働が行われている場合で、健康の確保対策がされていない場合
⑬定期健康診断又は要精密検査の実施状況が充分でない場合
⑭健康保持増進対策が講じられていない場合
⑮快適職場の形成対策が講じられていない場合
⑯試験・研究機関における災害防止対策等が充分でない場合
⑰小規模事業所(労働者数50人未満)であって、産業医を選任していない場合(共同して選任するよう要請されるようです)

是正勧告書

是正勧告書は、監督官が査察の際、事業所の資料に基づき労働基準関係法違反があれば、即時あるいは一定の期間内に是正することを求めて交付されるものです。
是正勧告は行政処分ではなく、行政指導にあたり、使用者はこれに従う法律上の義務は負いません。
是正勧告に従って行う改善は、あくまでも任意の協力によってなされているものです。
しかし、労働基準法等の違反状態を放置すれば、司法処分に附される可能性があるということを背景として間接的な強制力をもっていると考えられます。
是正勧告を受けたなら、
○指摘されたことの意味を納得できるまで説明してもらいましょう。この際アドバイスを受けられる良い機会と思って、疑問点を聞くといいでしょう。
○是正の方法を詳しく教えてもらい、パンフレットなどもいろいろもらいましょう。
○是正期日を決めるときは、会社の都合も聞いてもらいましょう。決算や棚卸で忙しい等具体的な事情があれば、言ってみましょう。